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ピーター・バラカンが語る、坂本龍一の”特別さ”と『戦メリ』の記憶。109シネマズプレミアム新宿で「SAION −SR EDITION−」を聴く

MOVIE WALKER PRESS

この春、東京・新宿に映画ファンのための重要拠点が誕生した。真新しい「東急歌舞伎町タワー」の9・10階にオープンした「109シネマズプレミアム新宿」は、全席プレミアムシートや上質なラウンジなど従来のシネコンとは一線を画す設計・設備が話題となっているが、ここで注目したいのが優れた音響システムだ。「109シネマズプレミアム新宿」は数々の映画音楽を手掛けた坂本龍一が全シアターの音響を監修。「SAION −SR EDITION−」と銘打った特別仕様となっている。今回、坂本龍一とゆかりのある人物を「109シネマズプレミアム新宿」のプレミアムシートに招き、音の印象や、坂本と仕事を共にした際の想い出などを語ってもらった。

最初に登場してもらったのは、ブロードキャスターのピーター・バラカン。ラジオやテレビを中心に、独自の嗅覚で選りすぐった良質な音楽を紹介し続けるミュージック・ラヴァーの一人だ。そんなバラカンが、生まれ育ったロンドンから日本の音楽出版社での職を得て来日したのは1974年。その頃の東京の映画館を思い出しながら、バラカンはこんなふうに語り始めた。

「当時、新宿のミラノ座は東京でいちばん大きな映画館だったと思います。ホームヴィデオもまだない時代、渋谷の東急やパンテオン、新宿ならミラノ座やピカデリーなど映画館にはしょっちゅう通っていました。昔は観客の入れ替えもないから混んでいて、階段に座って観たりすることもよくありましたね。だからといってチケットが安くなるわけでもありませんでしたが(笑)」

ここで、「109シネマズプレミアム新宿」のサウンドシステムの概要について触れておきたい。坂本龍一が目指した「本当にクオリティの高い音を提供する映画館」の実現に向け、スタジオやシアターの音響に精通する専門メーカーのスタッフが集結。映画音響の要となるスピーカーは厳選した素材を用いたカスタムメイド、日本初導入となる高品質パワーアンプ、それらを繋ぐケーブルも特別仕様とするなど、妥協を許さない姿勢が見て取れる。

そのようにして出来上がったシステムは8つのシアターすべてに導入され、音楽はもちろんセリフや効果音も含めた映画の音をこの上なく高品位に響かせる。デイヴィッド・クロズビーの「Laughing」、チャールズ・ロイド&ザ・マーヴェルズの「Shenandoah」、ジェブ・ロイ・ニコルズの「Monsters On The Hill」などお気に入りの楽曲を試聴したバラカンの耳にはどう届いただろうか?

ここからは、試聴後に行ったインタビューをお楽しみいただこう。話題は、当劇場のサウンドについてのインプレッションや映画館という空間の意義。そしてもう一つは、坂本龍一のことだ。

■「“すごい音”を意識させるものでもなく、自然に感激するようなシステムが好き」

バラカンと坂本の出会いは43年前にさかのぼる。イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)での活動が絶頂期だった1980年、坂本がリリースしたソロアルバム「B-2 UNIT」所収の楽曲「Thatness And Thereness」の歌詞の英訳を、共通の友人を介して任されたのだった。この仕事がきっかけとなり、バラカンはYMOの事務所へ転職することに。海外向けの版権事業などをこなす傍ら、YMOの「BGM」以降のアルバムで歌詞の英訳や作詞のサポート、また3人のメンバーの英語詞の発音指導などクリエイティヴな場面でも欠かせないスタッフの一人となった。そして、彼らの通訳として海外での活動にも同行したバラカンは1982年、映画『戦場のメリークリスマス』のロケ地にも帯同している。

――長時間の試聴、お疲れ様でした。まずは、「SAION −SR EDITION−」をお聴きになった率直な感想をお聞かせください。

「いやあ、すばらしい。さすがにすごくいい音でした」

――デモ上映では坂本龍一さんが音楽を担当した映画『レヴェナント:蘇えりし者』(15)もご覧いただきました。

「もう、観入ってしまいましたね。最初は音を意識して観はじめたんですが、いつの間にか映画に没頭してしまいました。でも、あらためてこの映画を観ると、演技も撮影もすごくいいんですが、音の作り方がすごいなと思いました。音楽はもちろん、いろんな自然音なども含め、それらがどうミックスされているかは家庭のテレビではなかなか分かりません。でも、こういう優れた音響設備のある映画館で大きな音で聴くと、そんな細かな音作りもよく聞こえるので感激します」

――お持ちいただいたCDを試聴した印象はいかがでしたか。

「例えばチャールズ・ロイドの曲では、真ん中にサックスがいて、やや左にビル・フリゼルのギター、やや右にグレッグ・リースのギター、そしてベイスとドラムズがセンターに近いところに定位しているのですが、目を閉じて聴いていると、バンドが本当に目の前で演奏しているような気がしました。このアルバムの演奏はすばらしく、音は繊細なのですが、すごくリアリティが感じられて良かったです」

――通常のリスニング・ルームに比べて非常に広大な空間ですが、大味にならず、おっしゃるとおり音楽の繊細な部分も聴き取れるようでした。

「そうですね。ものによって印象は様々で、例えばジェブ・ロイ・ニコルズの曲は閉じこもった感じがあり、デイヴィッド・クロズビーは膨らみを感じさせるヴォーカルのハーモニーに包まれているような気持ちになりました」

――バラカンさんは豊富な音楽知識を活かして、海外の音楽ドキュメンタリーなど映画の字幕を監修したり、一昨年から音楽映画祭「Peter Barakan’s Music Film Festival」を開催したり、映画との接点も多く持たれています。そんなバラカンさんにとって、映画館という空間の持つ意義とはなんでしょう。

「近年は映画も配信で観ることが増えてきましたが、音楽映画祭に携わるようになって、僕自身も以前に比べて頻繁に映画館に足を運ぶようになりました。ヴィデオや配信でしか観られない作品もあるのでそれはそれでいいのですが、映画はやはりこういう大きな画面と大きな音で、暗い空間で観るに限ります。僕が足を運ぶのはどちらかというとミニシアターが多いのですが、最近は音にこだわる劇場も増えていて、東京でも地方でも、いい音で聴ける映画館はけっこうあるんですよ」

――このところ音楽にまつわる映画も多く作られ、人気を博しています。その意味でも、「音楽を聴かせる映画館」のニーズも高まっていると思いますが、音楽ファンから見た劇場のサウンドシステムはどのようなものであるべきだと考えますか。

「“すごい音”を意識させるものでもなく、自然に感激するようなシステムが好きです。その意味で、ここのシステムもすごくいいと思います。サブウーファーがたくさんあると聞いて驚きましたが、それを特に意識させることもありません。音楽を聴くシステムとしてのクオリティも高いと感じました。この音なら、映画だけじゃなく、音楽のイベントをやってもいいのではないでしょうか」

■「メロディを聴けば“ああ、教授だな”とすぐ分かりますよね。それはアーティストとして大事なこと」
――さて、バラカンさんと言えば『戦場のメリークリスマス』のロケに帯同されたことでも知られています。ラロトンガ、オークランドそれぞれのロケ地での想い出をご紹介ください。聞くところによると、デイヴィッド・ボウイはラロトンガではとてもフレンドリーに人と接していたらしいですね。

「当時のラロトンガにはホテルが一つしかなかったから、みんな同じところに泊まっていました。そこではデイヴィッド・ボウイも全然気取っていなかったんですよ。でも、その後に移ったオークランドは都市だから泊まるところもバラバラで。デイヴィッド・ボウイと会うことはほとんどありませんでした」

――では、ラロトンガでのボウイとの想い出は?

「この撮影の直前、僕は夏休みをバリ島で過ごしていて、そこで買ってきた三角形(傘)の麦わら帽子を被ったり、バリで流行っていたダボダボのパンツを穿いたりしていたんです。あるとき、それを見たデイヴィッド・ボウイが“このロケ地でいちばんスタイリッシュなのは君じゃない?”って(笑)。極めてカジュアルで、ヒッピーっぽかったけどね」

――坂本さんは、ロケ地での撮影を終えてから、東京のスタジオでサウンドトラックの制作に臨みました。同じ風景をご覧になったバラカンさんに、その音楽はどう響きましたか。

「やはりなじみがあるからか、いまでも好きなアルバムです。有名なテーマ曲だけじゃなく、その他の短い曲もすごく深い印象を残しています。個人的には、米国アカデミー賞の作曲賞を受賞した『ラストエンペラー』よりも『戦メリ』のほうが好きかな。ロケに同行したこともあるかもしれませんが、本当に傑作だと思います」

――『戦メリ』以降、多くのサントラを手掛けていった坂本さんの映画音楽で発揮されるクリエティヴィティやオリジナリティに関して思うことはなんでしょうか。また、バラカンさんから見た坂本さんの音楽の魅力とは?

「彼ほどのミュージシャンですから、オリジナリティは当然すごいものがあるわけで…例えば、メロディを聴けば“ああ、教授(坂本さんの愛称)だな”とすぐ分かりますよね。それはアーティストとして大事なことです。そして、YMOのレコーディングに携わった時、教授がProphet-5というアナログ・シンセサイザーのツマミをいじりながら音を作っていく姿をスタジオで見ていましたが、そこで出てくるのはまさしく坂本龍一の音でした。あの独特の音は本当に素晴らしかった。そんなところにも、彼のオリジナリティは表れています。もちろん、ピアノでも彼のタッチや音色もありますが、まだデジタルシンセが出る前の時代のシンセサイザー・サウンドにおける彼の存在は極めて大きかったと思います」

――ありがとうございます。ところで、こちらの劇場で鑑賞してみたい映画はなんですか。

「ここでだったら、なんでも観たいですよ(笑)。まあ、『アメリカン・ユートピア』のような現代のいい音楽映画はもちろんですが、リマスターされた昔の映画もいいですよね。例えばポール・ニューマンの『明日に向って撃て!』とか、あの時代にもいいものがたくさんありますよね。また、モノクロの映画も観たい気がするな。1940年代のハンフリー・ボガートの探偵ものとかもいいですね。それをいい音で聴けたらうれしいなあ」

――ここでは坂本さんのリクエストもあってフィルム作品も上映できるそうですよ。

「35mmも観られるんですか。じゃあ、『カサブランカ』なんかも観たいなあ(笑)。映画はやっぱり映画館で観るのが一番。僕の音楽映画祭『Peter Barakan’s Music Film Festival』も開催しますので、こちらもぜひ観に来てください」

なお、現在「109シネマズプレミアム新宿」では坂本龍一が音楽を手掛けた『怪物』が公開中だ。本作は『万引き家族』(19)の是枝裕和が監督を、『花束みたいな恋をした』(21)などの坂元裕二が脚本を務めており、第76回カンヌ国際映画祭では脚本賞とクィア・パルム賞を受賞。坂本龍一にとって映画音楽としては“遺作”となる作品でもあり、是枝監督は「この作品にとって坂本さんの音楽が必要だったというのは、できあがった作品を観ると誰よりも自分が感じています」とコメント。

出色のヒューマンドラマを彩る音楽には、世界からも注目が集まっている。研ぎ澄まされた坂本龍一の仕事を、坂本龍一自身が全シアターの音響を監修した「109シネマズプレミアム新宿」で観るという、代えがたい体験をぜひしてほしい。

※本記事の取材は、2022年に行われたものです。当記事の制作中、坂本龍一さんの訃報が届きました。心よりご冥福をお祈りします。

取材・文/山本昇
 
   

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