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『メディア王』サクセッション=継承の物語が終幕 狂騒を見つめることしかできない私たち

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『メディア王~華麗なる一族~ シーズン4』©2023 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

 ウェイスター・ロイコの命運を決する役員会を翌日に控え、各陣営は最後の票読みと根回しに総力を挙げていた。ケンダル(ジェレミー・ストロング)陣営はここに来てスチューイ(アリアン・モーイエド)の動きが怪しい。「前回お前についた時は陰毛までコゲた」と言った男である。友情よりも風向きを読んで裏切ることは十分にあり得る。そして肝心要のローマン(キーラン・カルキン)は葬儀の日を最後に行方が知れない。ケンダルの票読みは楽観的で、根拠のない自信に満ちあふれている。

参考:『メディア王』いよいよ“最後の戦い”へ 三者三様の弔辞にみる会話劇としてのダイナミズム

 対するマットソン陣営のシヴ(サラ・スヌーク)は優勢との観測に上機嫌。新聞のコラムには人形のマットソンを操るシヴの風刺画が載っている。そこへ母キャロライン(ハリエット・ウォルター)から電話がかかってくる。カリブに隠遁する彼女の元にローマンが身を寄せているというのだ。かくして決戦の日を前に、ロイ家の3兄妹は思いがけずカリブの夜を過ごすことになる。

 『メディア王~華麗なる一族~(原題:サクセッション)』(以下、『サクセッション』)の特徴的なストーリーテリングの1つに、事件や対立軸を必ずしも次のエピソードへ持ち込まない“伏線のなさ”がある。それは現代の天上人であるロイ家にとってほとんどの出来事が些事であり、激しく口論しようとも翌朝には顔を突き合わせるのが兄妹だからだ。カリブに集った3人は目下の問題について対立するものの、いつも通りに悪態をつき合えば、いつしか兄妹だけが織りなす親密な時間を形成していく。近年『キリング・イヴ/Killing Eve』『最後の決闘裁判』『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』など“毒親”を演じ続けているハリエット・ウォルターのキャロラインも、ローガン(ブライアン・コックス)の葬儀を終えてか、険が取れたような印象がある。「会社と別れて新しい人生を始めるの」と子どもたちを諭す彼女の姿勢は母親として一貫している。

 その頃、トム(マシュー・マクファディン)はマットソン(アレクサンダー・スカルスガルド)とのディナーミーティングに臨んでいた。買収合併後の生き残りをかけて自身を売り込むべく、トムはセールスポイントを並べ立てる。「コストを絞って収益を上げる」「ボスに従順」「のみ込みは早いと思う」。巨大企業の重役とは思えない月並みさだが、凡庸こそが彼の美徳。何よりトムはいつ自分が転落し、全てを失うのかと怯え続けている。恐怖を抱えた凡人ほど支配する側にとって与しやすい者はいない。シヴを疎ましく思い始めていたマットソンが必要とするのはビジネスパートナーではなく“表看板”。マットソンは「シヴとヤリたい」とほくそ笑み、「選ぶなら彼女の腹に子を仕込んだ男がいい」とトムと新CEO就任の密約を交わす。さすがのトムもこの下劣さは腹に据えかねた様子だが、何とか呑み込んだ。シヴとの結婚に始まり、シーズン3でのケンダルの乱、3兄妹のクーデター未遂と常に周りを観察し、つく相手を間違えないのがトムの処世術、才能である。その勤勉さは終幕、裏仕事に手を染めるヒューゴー(フィッシャー・スティーヴンス)ではなく、カロリーナ(ダグマーラ・ドミンスク)やジェリー(J・スミス=キャメロン)といった有能なスタッフを身の回りに置くところからも窺える。シーズン4第9話『葬儀と政治』では危篤状態に陥ったローガンの第一発見者であったことが明かされ、トムはまだ息のあった義父に別れの言葉を告げることができたのだと言う。継承はとうの昔に画面の外で行われ、私たちは兄妹ともども知る由などなかったのだ。

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 一方で、常につく相手を見誤ってきたのがグレッグ(ニコラス・ブラウン)である。マットソンの裏切りを掴むや臆面もなくケンダルに見返りを求め、シヴが新CEO候補から既に外されているとタレこんだ。反撃を試みる兄妹は、勝つためには三頭体制ではなく、唯一の“王”が必要だと悟る。7歳の時に父から玉座を約束された思い出を語り、自身が新CEOに相応しい理由を並べ立てるケンダルの言い分は一見もっともらしいが、確信的な口ぶりは弟妹たちを置き去りにしている。打算と浅慮、そして家族ゆえの情が入り混じり、弟妹はケンダルに新CEOの“聖別”を与える。キッチンで繰り広げられるやり取りは、おそらくそう長くはなかったであろう彼らの屈託のない幼少期を思わせ、胸が熱くなる。ここから3人が“王都”へと戻る一連のシークエンスはシーズン4に入ってさらに筆が乗るニコラス・ブリテルのスコアによって、これまでになく高揚感に満ちている。

 しかし、在りし日の父が子どもたちを見て「この世に残るものなどない」と絶望したように、例え家族として愛していても許せない、理解できないという断絶を描いてきたのも『サクセッション』である。社に戻るやいなや父のデスクに足をのせるケンダルを見て、シヴは顔をしかめる。弔辞で「あの力が欲しい」と宣言したケンダルの継承とは権力を引き継ぐだけでなく、彼の目線を通じたローガンの再生、醜悪さの再現である。それは弔辞で故人を偲びながら「女性の扱いが酷かった」と言及せずにはいられなかったシヴにとって、到底看過できるものではない。ましてや「オレは1つの機械にしか合わない歯車なんだ」とまで言う兄の傲慢さを、これまでいったい何度見てきたことか。「兄貴のことは愛してるよ。でも我慢できない」と言う妹をケンダルは恫喝し、ついには自分が長男であると血統を持ち出して、かつての父親と同じくローマンを暴力でねじ伏せる。最後の反対票を投じに行く妹を背にしてローマンは言う。「もう何もない。壊れたショーをノリでくっつけただけ。オレたちはクソなんだ。もう終わりだ。これでいい」。父の期待に応えることなく自ら王国を売り渡すローマンは終幕、自嘲とも安堵とも見て取れる表情を浮かべる。会社を手放すことで彼はようやく呪縛から解放されたのかもしれない。 

 片や“CEOの娘”から“CEOの妻”という肩書に変わったシヴにはもうどこにも行き場がない。破滅的な口論以後、わずかながらの歩み寄りを見せていたシヴに対し、トムの心は冷え切っている。彼は妊娠を聞かされてもにわかに信じず、第10話冒頭、自身の弱さを曝け出したシヴの「本当の夫婦になってみる気はある?」という問いかけにも頭を振るばかりだった。トムから差し出された手に自らを預ける彼女は、忌み嫌った母親と同じように望まぬ出産を迎えるのだろうか。権力に執着し、自身の理想もかなぐり捨てた“薄っぺらさ”が招く代償としてはあまりに辛辣である。

 シーズン4第10話のエピソードタイトルは『現実を見る目』(原題:With Open Eyes)。社会は変わることなく、極右政治家が権力を握り、悪辣な資本主義が人間の心を買い付けては“Gregging”する。1つのシステムが滅んでも、また新たなシステムがそれを継承し、代行する。全てを失ったケンダルは呆然自失のまま、寒々しいハドソン川を見つめる。水とは常にケンダルの精神と運命を司ってきたモチーフだ。撮影では彼が入水しようと欄干に身を乗り出す場面も検討され、そこでケンダルを止めるのは後ろに付き従う運転手のコリン(スコット・ニコルソン)だったという。(※)かつて父ローガンが親友とまで言い、自身の胸の内を晒した一介の労働者が、『サクセッション』の最後に僅かながら映る私たちの姿かもしれない。私たちはただ踏みとどまり、この狂騒を見つめることしかできないのだ。

【参照】
※ https://www.indiewire.com/news/breaking-news/jeremy-strong-succession-series-finale-alternate-ending-1234868964/

(文=長内那由多(Nayuta Osanai))

 
   

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