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未曽有の事故──残された時間に翻弄される人々を描く驚愕の実話「潜水艦クルスクの生存者たち」

キネマ旬報WEB

2000年にロシアで実際に起きた原子力潜水艦クルスクの爆発・沈没事故と、救助をめぐる顛末を、トマス・ヴィンターベア監督により映画化した「潜水艦クルスクの生存者たち」のBlu-rayが6月2日に発売。未曽有の事故をめぐり、残された時間に翻弄された生存者、彼らの救出に乗り出す者、そして無事を祈る家族を描いた本作の見どころを解説する。

多国籍キャスト&スタッフがロシアの惨事を描く

ムルマンスクに司令部を置くロシア海軍北方艦隊。軍事演習のためバレンツ海を進んでいた原子力潜水艦クルスクだったが、搭載した魚雷が突如爆発する。冷戦以後の国力衰退に起因する整備不良と劣化、および前兆を察知しながら柔軟に対応しない官僚的判断が招いた、半ば人災だ。沈没し、浸水が進むクルスクで、わずか23名の生存者は救助を待つことに──。

生存者のひとりであり、仲間を鼓舞しながら希望を繋ぐ司令官ミハイルを演じるのはマティアス・スーナールツ。その妻であり、政府の緩慢な対応に不安と怒りを募らせるターニャ役にレア・セドゥ。事故を察知して救助支援を申し出るイギリス海軍准将デイビッド・ラッセル役にコリン・ファース。乗組員の命よりも軍事機密と国家の威信を優先し、海外支援を受け入れようとしない政府側の代表者というべきペトレンコ指令長官役にマックス・フォン・シドー。ミハイルの同僚アントン役にアウグスト・ディール。

さらに監督はトマス・ヴィンターベア、製作会社はヨーロッパ・コープ。見事なまでに当事国ロシアではない、欧州西側諸国の映画人たちが集結した(その出身国はベルギー、フランス、イギリス、スウェーデン、ドイツ、デンマーク等々)。そうして映画を完成させたのも、国家の枠組みを超えて語るに値する、愛と誇りと献身、すなわち普遍的ヒューマニティの実話があったからだ。

ニュースで事故の概要を知り、同情的な定型句で飾るのはたやすい。だが人物たちの表情と息づかいを目の当たりにさせる映画によって、私たちは遠い国の災難ではなく、隣人の痛みとして共有することができる。時に取り乱しながらも勇敢に対処するミハイルたちの覚悟、そしていよいよ命運が尽きかけた時にこそ、優雅に晴れやかに、最後の生を謳歌する開き直りの気高さには感動する。また、ともに救助を急ごうとするロシアのグルジンスキー大将とイギリスのラッセル准将の絆にも心を奪われる。海の軍人のプライドで結ばれたふたりに、国籍の違いなど関係ない。もちろん、夫たちの帰還を願いながら声を上げる妻たちも。それをのらりくらりとかわすのは、軍服を冷水で濡らすことなく悠然と構えた上官たち。もちろん観る者は怒りを覚えるが、ひょっとしたら彼らも何らかの意味で犠牲者なのかもしれない。

マクロとミクロの交差

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特典映像の「潜水艦クルスクの乗組員たち」は、キャストにフォーカスしたもの。凛々しい軍服姿でインタビューに応じるミハイル役のマティアス・スーナールツは、「マクロな政治的思惑と、ミクロな艦内の出来事」が交差した物語だと説明する。マクロとミクロを始め、さまざまなコントラストは確かに印象深い。白い陽光が拡散した北国の町と、死の闇が迫る海底。鯨のように巨大なクルスクと、それに呑まれたような矮小な人間。妻と子が触れる大自然の広がりと、夫が向き合うメカニカルな艦内の閉塞感。そうした視覚的な豊かさを得るのに、少なからぬ技術力と努力を要したことは想像に難くない。撮影における挑戦と苦労、達成については、特典映像「潜水艦クルスクの心臓部」で撮影監督のアンソニー・ドッド・マントルが語っているので、メイキング映像と併せて注目したい。

異なる《時間》スケールが溶解する

キャストからスタッフまで多くの名前が登場したが、いまひとり重要なのは、脚本家のロバート・ロダットだ(「プライベート・ライアン」などで知られる)。今回のシナリオで軸としたのは、おそらく《時間》。ミハイルの息子、ミーシャが浴槽で挑戦する素潜りは57秒、ミハイルの同僚パヴェルが結婚式で花嫁と交わす口づけは20秒、クルスクに囚われた者たちが生存を知らせるためにハンマーを打ち鳴らすのは正時、艦内の酸素が持つのはあと2〜3分──。パヴェルの挙式代を捻出するために《時計》を売ってしまったミハイルは、そうした《時間》の物語に余儀なく翻弄されていく。

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