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『怪物』で胸打つ演技を見せた黒川想矢&柊木陽太。是枝裕和監督が見つめた、少年たちが“役を自分のものにする”過程

MOVIE WALKER PRESS

『万引き家族』(18)の是枝裕和監督と『花束みたいな恋をした』(21)の脚本家、坂元裕二がタッグを組んだ映画『怪物』(6月2日公開)。物語の鍵を握る子役2人は、オーディションで選ばれた。郊外の街で暮らすシングルマザー麦野早織(安藤サクラ)のひとり息子、湊役を演じたのは黒川想矢、13歳。湊の友人、星川依里役を演じたのは柊木陽太、11歳。2人共、今作が映画初出演でありながら主要キャストに名を連ね、圧倒的な実力者たちと共にすばらしい演技をスクリーンに残した。是枝裕和監督と子役2人の視点が交錯するように、映画『怪物』を様々な角度から語ってもらった。

ある日起きた、よくある子ども同士のケンカ。しかし子どもたちをはじめ、息子が教師に暴力を振るわれたと訴える母親、否定する教師らの食い違う主張によって、やがてメディアをも巻き込んだ事態に発展していく。そして嵐の夜、子どもたちは忽然と姿を消してしまう。

■「答えをもらって演じるのと考えて演じるのとでは、大きな違いがあるのかなと思います」(柊木)

――今回、是枝監督の子役への演出方法が大きく変わったと資料を拝見しました。これまでは台本を渡さず口伝えだったのが、2人には台本を渡して演じてもらっている。あえて変更した理由をお伺いできますか?

是枝裕和(以下、是枝)「大それた理由ではなくて、単純に2人が『台本を事前に読むほうがいい』と言ったからです」

黒川想矢(以下、黒川)、柊木陽太(以下、柊木)「(うなずく)」

是枝「オーディションでは口伝えでセリフを言ってもらうやり方も試したのですが、2人の場合は、事前に台本を読んでお芝居するほうがやりやすそうでした。僕のいつものやり方が正解なわけではないので、その都度正解を探していくなかで、今回は2人に台本を渡すことにした。それはうまくいったんじゃないかと思います」

――お2人は初めて是枝組に参加されて、どんなことが印象に残っていますか?監督から言われた言葉や印象的なシーンがあれば教えて下さい。

黒川「監督が、コップの話をしてくれたことがありました。コーヒーを飲むなら、ソーサーがついたコーヒーカップを使うし、水を飲むならグラスを使う。飲むものによって器の素材や質感が変わるから、そういうことを考えて演じるのがいいんじゃないかっていうお話が印象的でした」

是枝「それは、自分自身を“器”に例えて、どういう形状で、どういう材質で、そこになにを注ぐのか、それは温かいのか冷たいのか。その人物を演じる時に、そういうイメージで感情を作っていくのがいいのではないか、という話でした」

黒川「僕なりにイメージしてやってみたんですけど、まだつかめていなくて…でも、すごく印象に残っています。あと、感情を身体のどこかの部位に変えて表現してみる、という話もしてもらいました。例えば、その楽しさは、寒いのにお腹がポカポカしてくるような楽しさとか、その寂しさは、指先がちょっと痛くなるような寂しさとか。身体のどこかと気持ちを重ねて演じてみると、おもしろいなと思いました。難しかったんですけど、よく思い出していました」

――俳優としての感覚が、備わっていらっしゃるんですね。心という曖昧なものを身体で捉えると自分のなかではっきりする、というのはとても俳優的だなと思います。柊木さんはいかがですか?

柊木「僕は、撮影前の顔合わせのことをよく覚えています。台本を読むとか、リハーサルをするとかじゃなくて、僕と黒川くんの関係を深めるための時間を作ってくださって。公園でたっぷり遊びました」

黒川「バトミントンをしたり、かくれんぼをしたり」

柊木「その時間がすごく楽しくて、撮影にも入りやすかったです」

黒川「監督とのエピソードでいうと、(劇中で湊が生まれ変わったらなにになるんだろうと語っていたことになぞらえて)監督が柊木くんと僕の役柄が、生まれ変わったらなんの動物か例えてくれたのが楽しかったです。依里はヒヨコで」

柊木「湊はなんだっけ?」

黒川「えっと…思い出せないけど、たしか監督も、ヒヨコかもって話してましたよね?」

是枝「俺もヒヨコなの?かわいすぎるな(笑)」

柊木「あと、台本に『(僕は)2時』と書かれていたんです。このカッコはどういう意味だろうと思って監督に聞きに行ったら、『どういうことだと思う?』(監督のにこやかな表情のモノマネ)って言われて」

――にこやかに。

柊木「はい。それから、セリフの意図を自分自身で考えるようになりました。自分のセリフについて自分なりに悩むからこそ役に入り込めるのかな、と思うようになって、勉強になりました」

――答えを提示されたほうがわかりやすいと思うのですが、そのあたりは「具体的に教えてほしい」とは思わなかったのでしょうか?

柊木「最初から答えをもらうのは、ただ言われたことをやるだけになってしまうので…答えをもらって演じるのと考えて演じるのとでは、大きな違いがあるのかなと思います」

是枝「すごいでしょう?もう、言うことがないでしょう?」

――ちょっと、圧倒されてしまいました。お2人とも、試行錯誤しながら俳優という仕事にしっかり向き合っていらっしゃるんですね。

是枝「オーディションの時から、そうでした。どういう風にその役を自分のものにするか、ということにすごく真摯に取り組んでいたし、ちゃんと芯になる部分をつかんでいました。カメラを離れて接していると子どもらしいんですよ。だけど、演じるうえではプロの俳優でした」

■「観ていくうちにどんどん物語に引き込まれていきました」(黒川)

――とても好きだったのが、秘密基地のシーンです。秘密基地のユートピア感というか、本当に2人だけの大切な場所という感じが画面から溢れ出ていました。

黒川「電車の内装も、自分たちでやらせてもらったんです」

――そうだったんですね!台本があったのかアドリブだったのか、あまりにナチュラルな演技も印象的でした。

黒川「台本がしっかりあるところもあれば、アドリブもありました。撮影をしていない時に2人で電車を使って遊んでいたら、その様子を見た監督が『それいいね!』とシーンに入れてくれたこともあって。だから、2人だけの空間だと、思ってもらえたのかもしれないです」

柊木「取り入れてもらえると、うれしかったですね。僕が作ったものが映画に映っているなあって」

――もともと是枝作品では、どの作品がお好きでしたか?

柊木「僕は『万引き家族』です。でも、どの作品も好きでした」

黒川「僕は『怪物』を撮り終えてから、監督の作品を観たんです。『海街diary』や『そして父になる』も好きでしたけど…でも、そうですね。『怪物』が一番好きです」

是枝「(拍手)こんな受け答えまで覚えちゃって(笑)」

黒川「でも、ほんとにそう思っています。最初、自分の顔が大きくスクリーンに映った時は『恥ずかしいな』という気持ちが強かったんですけど、観ていくうちにどんどん物語に引き込まれていきました」

■「この映画で描いたのは、誰もが怪物になりうる、片足を突っ込んでいる状態だということです」(是枝監督)

――没入感のある作品だったと思います。それぞれのパートで、それぞれの視点に感情移入しながらあらゆる生き方を認めていくといいますか。それは、監督の手腕によるところが大きいと思いますが、撮影をされる際に「複数視点からの構成」というのは、どれくらい意識されたのでしょうか?

是枝「演じ分けてくれ、という話はあまりしていないので、僕自身複数視点からの構成を撮影現場で意識することはなかったです。『視点が変わると見えてくるものが変わる』ということだけを意識して、光を当てる角度で人物が違って見えるようにしました。皆さんの演技は申し分のない上手さだったので、僕がなにかをしなくてもいい。あとは編集で、どう整合性を取っていくか、ということですね」

柊木「現場では、監督がアドバイスをしてくれて、自分自身も台本を読んで考えて役に集中できたので、物語の構成まで考えることはありませんでした。そのシーンがやってきたら、その役柄としてそこに立つ、という感じでした」

――ちなみに別のインタビューでは「テイクを重ねた」というお話があったのですが。

是枝「いつもよりテイクが多かったわけではないですね。ただ、今回は複数章で構成されているため物語性が強いので、僕が普段の映画で描いているのは、日常を切り取って、描写する“スライス・オブ・ライフ”ですが、今回はストーリーテリングを強めに描いた劇映画なので、『物語をきちんと伝える』という意識はこれまでよりも強く持っていました。物語を進めていくためにどのカメラワークで、どのカメラポジションが適切なのか。そういう選択の仕方はこれまでと違うでしょうし、撮影監督の近藤龍人さんも一緒に考えてくれました」

――監督は「坂元さんの書く人間には僕が書けない人間がいる」と仰っていましたが、本作ではどの人物がそれに当たるのでしょうか?

是枝「そうですね…ある特定のキャラクターというより、“振り幅”ですね。台本を読んでいて秀逸だと思いました。例えば母親が自分の息子に『湊の脳は豚の脳と入れ替えられてるんだよ』と言われたところから、いざこざが始まります。親は子どもを守りたいから、愛情が暴走して『頭に豚の脳が入ってんのはあんたの方でしょ』と言ってしまいます。その反転の仕方が見事だと思いました。自分が言われて一番傷ついた言葉を、相手が誰であれ自分も口にしてしまう怖さ。子ども想いな母親なのに、『言いそうだな』というところまで人格を広げてしまえる人物描写は、圧巻でした」

――人間の多面性の振り幅が広い、というイメージでしょうか。

是枝「裏表がある、くらいではないんですよね。僕が描く人はもう少し狭いけれど、坂元さんの描く人物像は振り幅が広い。台本を読んでいて関心したのは、例えば校長先生がスーパーで騒がしい子どもを転ばせますよね。ゾッとするシーンから幸せを語るところまで描けてしまう説得力と、キャラクターの“ここからここまで”を見極めている感じがしました。なので、撮っていておもしろかったです」

――その多面性や振り幅の広さが『怪物』というタイトルに帰結してきますね。

是枝「そうですね。この映画で描いたのは、誰もが怪物になりうる、片足を突っ込んでいる状態だということです。見えない沼にハマってしまうかもしれないし、抜け出せる可能性も同時に持っている。言ってしまえば人間への“信頼”をベースに書かれているので、希望を感じるのだと思います。取るに足らない“怪物探し”をきっかけに、人が光のようなものを見つけていく、その人間の変容ぶりはすばらしい脚本があってこそだと思いました」

取材・文/羽佐田瑤子
 
   

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