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『雄獅少年/ライオン少年』で果たした挑戦と未来を監督が明かす「新鮮味のある中国のアニメーションを提供できればうれしい」

MOVIE WALKER PRESS

中国で大ヒットを記録したCGアニメーション映画『雄獅少年/ライオン少年』が日本で公開中だ。負け組の日々を送っていた主人公が獅子舞バトルで人生を切り拓いていこうとする物語で、躍動感あふれる獅子舞の描写に驚きつつ、どん底から這いあがろうとする少年の姿に心揺さぶられるドラマチックな1作として完成している。MOVIE WALKER PRESSでは、ソン・ハイポン監督を直撃。急成長を遂げている中国のアニメーション業界について「独自の要素や、オリジナリティを打ち出していきたい」と未来を語る共に、日本のアニメーションから受けた影響や、本作で試みた新たなチャレンジまで明かしてくれた。

■「人々の生活に密着した作品をつくりたかった」

本作の主人公は、片田舎で出稼ぎをしている父母の帰りを待つ、貧しい少年チュン(日本語吹替:花江夏樹)。ある日、同じ名前の少女チュン(日本語吹替:桜田ひより)から獅子頭を譲り受けたことをきっかけに、仲間のマオ(日本語吹替:山口勝平)やワン公(日本語吹替:落合福嗣)と、獅子舞の演技を競い合う“獅子舞バトル”の全国大会を目指すことを決意。元獅子舞選手のチアン(日本語吹替:山寺宏一)のもとで特訓に励むが、あらゆる困難がチュンを待ち受けていた。

急速な経済発展の陰で、両親の出稼ぎによって故郷に残される“留守児童”と呼ばれるチュンのような子どもたちは、中国に数多く存在しているという。完全オリジナルの作品に挑むうえで、中国の伝統芸能である獅子舞と“留守児童”を組み合わせた理由ついて、ソン監督は「本作を通して、生活者たちの旺盛な生命力を伝えたかった」と胸の内を語る。

「中国の商業アニメでは神話を題材にしたアニメを見かけることも多いのですが、私は神話ではなく、人々の生活に密着した作品を作りたいと思っていました。当初は熱血感のあるスポーツものをやりたいと考えていたんですが、ある日、獅子舞を題材にするのはどうだろうと思いついて。広東省で生活をしている私にとって、獅子舞というのは日常にありふれている光景です。スーパーやお店の開店祝いなどでも、獅子舞が行われるんですよ。獅子舞は中国の伝統芸の一つであり、人々の豊かな感情を伝えることもできる。さらにデザイン性もありつつ、あらゆる音楽、ダンスの要素もある。獅子舞の競技会を描くことで、スポーツとしてのおもしろさも表現することができる。『アニメーションとして描くにはぴったりだ』と思いついたんです。また自分の身近にあるものだからこそ、研究や観察もたくさんできる。それもメリットだと思いました」。

チュン、そして共に大会を目指すマオ、ワン公の掛け合いも楽しく、観る者に幼なじみや仲間を思い出させてくれるような生き生きとした魅力がある。ソン監督の「人々の生活に密着した作品をつくりたかった」という想いは、チュンたちのキャラクターデザインにも表れている。

「農村に住む普通の子どもたちを主人公にしたかった」と切りだしたソン監督は、「チュンやマオ、ワン公は外見が派手なタイプではありません。またチュンはとてもひ弱で、いじめられそうなイメージもありますが、獅子舞を通して強く、快活になっていく。そのプロセスを表現したかった」とキャラクターに込めた想いを吐露。「私はいつも、“普通の人たち”の営みに心を打たれています。本作に臨むうえでも、日常生活のなかにあるリアルな感情を表現することが大事だと思っていました」と地に足のついた物語、キャラクター作りを心がけたと話す。

■「迫力あふれる獅子舞を描く秘訣は、ディテールを深く観察すること」

獅子舞のデザインは美麗で、獅子舞バトルも圧倒的な迫力がある。ソン監督は「獅子舞の勉強は、ゼロからのスタートでした」と回想。監督チーム、絵コンテチーム、アニメチームは、近隣の獅子舞チームから「獅子舞の特訓を受けた」のだとか。

躍動感あふれる獅子舞を描く秘訣について聞いてみると、「ディテールを研究すること」とにっこり。「とにかくディテールを観察しました。その観察が多ければ多いほど、臨場感につながると思っています。例えば獅子頭の複雑な構造や、獅子頭に付けられた大量の毛など、材質や動きに至るまで、詳しく観察しました。獅子舞の動きは、映画全体の精神表現にも影響する可能性があるので、とても力を使いました」と研究を重ねた。

獅子舞の動きだけでなく、チュンたちの住む田舎町の情景や、チュンが出稼ぎで訪れた都会の風景、キャラクターの心情と重なり合ったアクションシーンなど、あらゆるアニメーション独自の表現に挑戦している。チュンがビルの屋上で獅子舞をやった後に、都会の空気を感じながら両手を広げるシーンは、10時間ほどかけて、やっと1フレーム(1秒が24フレーム)が完成したという。大小様々なビルが並びそこから太陽の光が差し込むなど、たくさんのディテールが加えられているシーンとなるが、ソン監督は「このシーンは、技術的にものすごく難しかった場面です。この場面では、大きなビル群の前に、とても小さな身体のチュンが配置されています。あまりにも小さいために、PCで作業する時は気づきませんでしたが、大きいスクリーンに投影した時にチュンの身体がどうしても揺れてしまうんです。なんとか揺れないよう、最後の最後まで粘ってレンダリングを行ないました」。

さらに「クライマックスで、チュンが高い柱に飛びつこうとする瞬間は、自分にとってもとてもチャレンジングなシーンになりました」とソン監督。「このシーンは技術の難しさというより、デザインに関する難しさがありました。なぜかというと本当の獅子舞競技には、このような高い柱は存在しません。でも私は、チュンの成長を表現するためにも、ここで高い柱を登場させたいと感じていました。どうやったら違和感なく、実際はありえないものをそこに存在させることができるのだろうかと、長い時間をかけて考えていきました」と振り返るように、リアリティとダイナミックさが共存するアニメらしいシーンとして完成している。

■「新鮮味のある中国のアニメーションを提供できれば、とてもうれしい」

1979年生まれのソン監督は、湖北美術学院(主専攻は水彩画)を卒業後、独学でアニメ制作を始めた。動く中華まんを主人公にした3Dアニメーション「美食大冒険」シリーズを手掛け、テレビ版3シーズン、映画1作を監督して高い評価を得るなど、中国で注目を集めるクリエイターとなった。本作では、あらゆる困難を前にくじけそうになったり、涙を流しながらも、必死に立ち上がろうとするチュンの姿が描かれているが、そこにはソン監督自身の想いも投影されていると語る。

「私も故郷を去る時には、チュンが村から出る時と同じようなミニバスに乗りました。故郷を離れる気持ちは、私も経験しています。そして都会に出てからいろいろな挫折を経験し、そんななかで歯を食いしばって頑張ってきたことも一緒。きっと多くのクリエイターが、作品に自己を投影している部分があると思います。私は、そういった投影があったからこそ、作品に生命力を宿すことができたのかなと感じています」と想いを巡らせながら、「作品づくりをしている時も、くじけそうになることがたくさんあります。『まだまだ道が長い』『先が見えない』と思うこともあって、そういった心情もチュンと同じものですね」と苦笑い。

そんな時にソン監督にとって前に進む原動力となっているのが、「使命感」だと力強く語る。「まず本作でつづられる少年の成長物語が、私は大好きです。なんとかこの物語を伝えたいと思いました。そして獅子舞というのは、中国の伝統芸能の一つです。獅子舞について勉強していくにつれて、自国の伝統文化を伝えたいという使命感も生まれました。そういった想いが、最後まで私を支えてくれました」と熱を込める。

そしてクリエイターとして影響を受けてきた存在について、ソン監督は「子どもの頃は、上海美術映画製作所の作品をよく観ていました。チュンのような青春期には、大量に日本のアニメを観るようになって。宮崎駿さん、大友克洋さん、今敏さんの作品からはとても影響を受けました。いまでも作品を見返して、たくさん勉強させてもらっています」と告白。今年は、井上雄彦による漫画「SLAM DUNK」を原作としたアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』(公開中)や、新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』(22)が中国でも大ヒットを果たしたが、「私くらいの年頃の中国の人たちにとっても、『SLAM DUNK』は青春なんですよ。漫画もアニメも大好きで、今回の映画にもとても注目をしていました。また新海監督の作品も大好きです。これまでのすべての作品を観ていますし、『言の葉の庭』や『天気の子』は特に好きです。ストーリーの表現の仕方、アニメーションの表現の仕方についても、とても勉強になっています。次回作の準備に追われていてまだ『すずめの戸締まり』を観られていないのですが、必ず観ます!」と大いに刺激を受けている。

日本では、2020年に公開された『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』がヒットを記録するなど、中国産アニメが急成長を遂げている。中国アニメ業界の現場について、ソン監督は「良い作品もどんどん生まれているし、世界的に見ても、興行的に良い成績を収めている作品も多いです。中国のマーケット全体がとても大きいことも、その要因の一つかもしれません」と語り、こう続けた。「中国アニメ業界の同業者たちも、自分のスタイルやオリジナリティを模索しているところです。これまでは日本アニメや、アメリカのアニメが、私たちにたくさんの栄養分を与えてくれました。これからは自分たちならではの要素を打ち出していく必要があると思っています。今回の『雄獅少年/ライオン少年』では、中国の伝統文化に着目して、キャラクターのデザインやストーリーについても、周囲の人たちにとって馴染みのあるものを表現したいと思っていました。そうすることで海外の方々にとっても、新鮮味のある中国のアニメーションを提供できればとてもうれしいです」。

取材・文/成田おり枝

※宮崎駿の崎はたつさき

 
   

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