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【日本ダービー】勝敗を分けたわずか0秒1の加速! タスティエーラが見せた底力と精神力

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皐月賞と日本ダービー

思い返せば、牡馬クラシック戦線は皐月賞前、大混戦といわれていた。皐月賞は6番人気まで単勝オッズ一桁台でどこからでも予想できるレースだった。ハイセイコーが勝った1973年以来、50年ぶりに重で行われた皐月賞はソールオリエンスのけた違いの末脚が強烈で、たちまち日本ダービーの主役に躍り出た。混戦から一強へ。少し極端な揺れ幅はソールオリエンスの走りが桁違いだったからこそ生まれた。イクイノックスに続くキタサンブラック産駒の大物と、エフフォーリアで涙を飲んだ若武者・横山武史騎手の成長と雪辱は夢中になれるだけの物語性があった。

皐月賞とダービーは桜花賞とオークスより関係は強く、基本的に皐月賞組が優勢とされる。一方、皐月賞とダービーは問われる能力は厳密には異なる。ダービーは皐月賞より位置取りが大切だ。直線が525mあるダービーだが、ペースが皐月賞ほどタイトにならないことが多い。もちろん、昨年のようにダービーが厳しい流れになることもある。その昨年の皐月賞はスロー寄りのイーブンペース。皐月賞とダービーで流れが変わることはままある。今年も皐月賞でハイペースを演出した先行勢はほぼダービーには進まず、上位好走馬が顔をそろえても、流れは大きく変わる可能性は考えられた。まして当日の馬場は皐月賞のクッション値8.0より1.5も高い9.5。絶好の良馬場と、置かれた条件は大きく異なった。


わずか0.1加速ラップを描いたタスティエーラ

先週のオークスに続き、田辺裕信騎手がパクスオトマニカで先手を奪い、前半1000m通過1:00.4。オークスより0.4遅いスローペースになり、皐月賞とはまるで違う競馬になった。ようはここまで違う競馬になっても、1、2着は皐月賞と着順がひっくり返っただけというのは、タスティエーラとソールオリエンスの総合力がいかに高いかを物語る。

ソールオリエンスは1枠でスタートから馬場の悪い部分を走った皐月賞とは一転し、スローペースとあって前半から流れに乗り、目の前にタスティエーラを置いての追走。文句なしの運びだった。対して同馬は背後のソールオリエンスを意識しつつ、逃げるパクスオトマニカを捕まえるホウオウビスケッツの勇気あるスパートにも遅れず反応する。全方位的にアンテナを巡らせるレーン騎手にも物語がある。日本ダービー初騎乗は来日1年目の2019年。騎乗馬は1番人気サートゥルナーリア。結果は4着。翌年はサリオスでコントレイルに挑み、2着。ダービー4度目の騎乗は初騎乗と同じテン乗りだったが、冷静な手綱さばきにはこの期間の経験が凝縮されていた。

残り200mがこうも長く感じるダービーは記憶にない。差されそうで差されないタスティエーラ、差せそうで差せないソールオリエンス、ハーツコンチェルト、ベラジオオペラ。この攻防にダービー90年の重みと尊さがあふれていた。最後は11.9-11.8。先頭に立ったタスティエーラはたった0.1だが、ゴール前の攻防で加速した。このたった0.1が勝利へ導いた。わずかでも加速できたからこその勝利であり、そこにタスティエーラの底力と精神力、レーン騎手の執念がみえた。文句なしの第90代日本ダービー馬だ。


グレード制導入後、初のダービー1~4着タイム差なし

2着ソールオリエンスは皐月賞では残り200mの攻防でタスティエーラを制すことができたが、今回はそこで踏ん張られてしまった。相手を褒めるしかないものの、悔いは残る。同馬に比べると、ややエンジンのかかりが遅かった。皐月賞の差し切りはそれゆえの勝利でもあり、イクイノックスと同じく未完成な部分が残り200mで響いたか。元々は秋以降に本格化しそうというのが陣営の見立てであり、また秋に強くなった姿を見せてほしい。楽しみに待とう。

牡馬クラシックは二冠とも残り200mというギリギリの攻防が勝者を決めた。多くのレースがそうであるように、残り200mで加速するのは並大抵のことではない。極限の世界での力の尽くし合いは観る者の魂を揺さぶった。ダービーで1~4着がタイム差なしという決着はグレード制導入以降、はじめてのこと。だからこそ、0.1の加速は大きい。ほんの少し甘くなれば、結果はどうなっていたか。まるで皐月賞前に戻ったかのような感覚だ。だが、0.1加速して紙一重を制したのはタスティエーラ。勝つと負けるは同じタイムでも違う。それが競馬というものだ。

最後は極限の世界まで駆けあがったダービー。スキルヴィングはゴール後に倒れ、命を散らした。最後の直線で発症しながらも、ゴール板を駆け抜け完走したスキルヴィングを私は忘れない。限界を超えてしまうことは誰にもどうにもできない。私にできることは忘れないことしかない。スタート直後に無念の落馬競走中止になったドゥラエレーデも含め、ここに駒を進めた18頭のこれまでの歩みを振り返ってほしい。


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。

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