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『ゼルダの伝説 ティアキン』ハイラルの向こうに京都を感じる?見立ての妙を楽しむ枯山水の世界【ゲームで世界を観る#46】

Game*Spark

『ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム』に登場した、超常的な力を操るゾナウ文明のデザインは、日本庭園の枯山水、中国の龍や甲骨文字、南米の地上絵など、エキゾチックな文化をミックスして作られています。前作の縄文に続き、日本文化の特徴的なものが取り上げられていて、空島を浮かべた文明の不思議な雰囲気を作るのに一役買っています。

枯山水とは「枯れた山水」、つまり自然の野山を表現する日本庭園の庭造りに於いて、水の部分を実際の水を使わずに表現する様式です。鑑賞するための日本庭園は池と川を中心に作ることが多く、貴族や武家は池の周りの散策をしたり、水の流れる音を楽しむ、湖面に映る景色を眺めるなど、時には船を浮かべて来賓をもてなしました。

優美な景色を庭の中に作り上げるに当たって、池の中の岩で桃源郷や仏教世界、海に浮かんだ日本を表現するといった「見立て」の趣旨が重要で、目の前にある景色以上のものを想像させることで異空間を演出するのです。そして、神話など見立ての元となる物語を共有していることが「教養」であり、かつては政治の場でもそれに重きを置いていました。

しかし水を使った庭園は大がかりでメンテナンスの手間もかかるため、政情が不安定なときにはなかなか作れません。そこで庭師は「見立て」を水にも応用して、並べた岩や石で水面を表現するようになります。広く敷いた砂利は大きな池や海、荒い岩の並びはしぶきが舞う急流や滝、実物でなくても見立てからそれらの気配を感じ取る、それが風流というわけです。映像は名実ともに日本一と讃えられる、島根県にある足立美術館の庭園です。遠くの山も取り入れた広大な空間には、海を表した砂が敷き詰められています。入り組んだ入り江のようで、何もないまっさらだからこそ、その奥の方まで視線が入っていく効果があります。

 

これらの技法を仏教、禅宗の寺院が取り入れて、自然の山水から離れた仏教の世界や精神性を「見立て」で表します。そこから極端な単純化、抽象化が進み、全面に敷き詰めた砂地に大小の岩が置いてある、一般的なイメージの枯山水になりました。京都龍安寺に代表されるこの景色は、人を招く貴族武家のものとは違い、日々の手入れ、座禅を通じて自身の精神をそこに投影する修行のため。気を散らす装飾性を削ぎ落としていった結果、いわゆる「概念」的なものになったのです。

枯山水庭園の特徴である砂の模様は、管理者の人が定期清掃後に毎回描き直しています。この熊手で描く「箒目」を毎回美しく仕上げるのも大変で、禅寺の場合は日課として毎朝掃除で消しては描きをやっているそうです。最もよく見かける直線と同心円の筋目は「漣」(さざ波)と「丸渦」といい、海に立つ波を表現しています。熊手を引きながら後ろ向きに進んでいき、描いたところに足跡を付けないよう歩き方にも結構気を遣うので、それなりに体力が無いと難しいでしょう。

置かれた石が表現しているものは様々で、中国の仙人が住む蓬莱山、桃源郷、仏教世界の中心である須弥山、いずれにしても陸続きではなく水で隔絶された彼岸をイメージさせます。頭だけ覗かせた龍の場合もありますね。いずれにしても、彼岸であっても船で渡ればそこに行けるかもしれない、と思わせる場所であり、修行の先に辿り着く境地を表しているようです。

自分が鳥瞰で箱庭を眺めているような心持ちでいると、凪の大海が見えてくるかもしれません。とはいえ、見方はこれだけではなく、それぞれが何を投影するのかは個々の自由です。龍安寺の15個置かれている岩は全て同時に見ることができず、必ずどれかが隠れて見えるという仕掛けになっていますが、それの意味するところは未だに謎に包まれています。答えのない見立ての奥深さに枯山水の妙があるのでしょうか。

『BotW』『TotK』のハイラルは京都市内をモデルにしているとのことですが、これも一種の日本庭園的な見立てと言えるでしょう。京都市街地の位置関係を知っている人であれば、ゲームの風景の中に身近な土地勘を重ねられますし、今作では祠のネーミングでそれがよりはっきりしました。枯山水の庭園を前にしたとき、そういう見立てに気付くことができるか、あるいは意外な見方で新たな発見をするか、引き出せるのは自分の中の教養や感性で、自己を映し出す鏡として機能します。機会があれば精神と向き合う場所として是非訪れてみてください。





 
   

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