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映倫 次世代への映画推薦委員会推薦作品 — 映画『ぼくたちの哲学教室』—

キネマ旬報WEB

校長と子どもたちの「対話」の授業が、分断された街を変える

まだ半ば眠ったようなベルファストの街。目に飛び込んでくる壁画や落書きは、カトリックとプロテスタントの宗派闘争から生じた悲劇と荒廃を物語る。エルヴィス・プレスリーを口ずさみつつホーリークロス男子小学校へ車を走らせ、子どもたちをハグやタッチで迎えるのはケヴィン校長だ。堂々としてユーモアたっぷり、そして「新学期最初の哲学の授業へようこそ」——哲学に情熱を燃やす。

哲学とは襟を正して拝聴するものではなく〝問う〞姿勢だと校長は教える。「他者に怒りをぶつけてよいか」、悪さをした子には「なぜやったのか」「感情をどうコントロールするか」、ケンカした子には「友だちとは何か」、時には「タイムトラベルは可能か」といった変わり種も。校長の盟友というべき教師ジャン=マリーも、持ち前の包容力と根気強さで生徒を導く。小さなプラトンたちは言葉を手繰り、考え、耳を傾ける。無心になり、笑い、戸惑い、相手の立場で考えることを学んでいく。「なかなか正解に辿り着けないのが哲学のいいところだ」と校長。若き日には自身も荒んでいた。ドラッグなどで命を落とした卒業生も少なくない。だから授業は続き、校長は誇り高くあることをやめない。

 

もちろん簡単ではない。仲直りしたはずの子たちが、またケンカした。手を上げたのは「殴られたら殴り返せとパパが言ってる」からだと返され、言葉を失う校長。考えに考え、暴力の連鎖を断ち切るために編み出した授業は、なかなかケッサクだ。成果は上出来、笑みと拍手が広がる。そして私たちは、胸を熱くしてもう大丈夫だと確信する。未来の困難など、この最強の瞬間を生きたことに立ち返れば、取るに足らない。過去は永遠となる。タイムトラベルを成功させたのは校長だ。

文=広岡歩 制作=キネマ旬報社
(キネマ旬報2023年6月上旬号より転載)

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「ぼくたちの哲学教室」
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