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誰もが持つ“心の宝石”を輝かせるために 癒しのジュエリーミステリー『鎌倉硝子館の宝石魔法師』の魅力

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 人はなぜ、宝石に惹かれるのだろう。昔からフィクションにおいても、宝石は希少な輝きで人々を魅了し、心を浄化させながら、一方で、欲望を引き寄せ、濁らせるものとして描かれてきた。たとえば『美少女戦士セーラームーン』では、主人公の透きとおった純粋な涙が、幻の銀水晶という強大な力を秘めた宝石へと変わり、その力で世界を救うこともあれば、争いの根源となることもある。『魔法少女まどか☆マギカ』で、主人公たちはソウルジェムと呼ばれる宝石を力の源に魔法少女へと変身し、願いをかなえるために魔法を使うたび、ジェムの色を濁らせていく。そんなふうに、心と連動して描かれがちなのは、ただの石ころだったものが、見出され、磨かれ、唯一無二の価値をいただいていくその姿に、私たち自身の姿を重ねてしまうからかもしれない。

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 『鎌倉硝子館の宝石魔法師』シリーズもまた、宝石の不思議な魔力を通じて人の心を描いていく物語だ。舞台は、鎌倉の鶴岡八幡宮ちかくにひっそりとたたずむ〝硝子館ヴェトロ・フェリーチェ〟。ダークチョコレート色の扉をあければ、美しい硝子雑貨の数々と、虹色の小さな光の水たまりがそこかしこに映し出された店内が目に入り、誰しも感嘆を漏らさずにはいられない。たまたま足を踏み入れた女子高生の桐生更紗は、その店の店長が同級生・蒼井悠斗の叔父だということを知る。そして、王子と呼ばれ、学校中の人気を集める彼の秘密を知ってしまう。彼の家業は、人の持つ〝心の宝石〟を鑑定しメンテナンスをほどこす、宝石魔法師だというのだ――。

 というわけで、ちょっぴりファンタジックな物語の幕開けである。その店に導かれるようにしてたどり着くのは、心の宝石の状態がよくない人ばかり。宝石魔法師はその補修にあたらねばならないのだが、まず、その宝石の種類を特定しなくてはならない。ここで、ただの美しい石とはせずに、現実に存在する鉱石の名前があがるのが、今作のおもしろいところだ。ラブラドライト、インペリアルトパーズ、アメトリンやダイヤモンドクォーツ。どれも、世界にただ一つしかない宝石というわけではないが、色やかたちによって輝きが異なるのは、人も同じである。物語では、エピソードごとに異なる宝石をもつ人たちが登場するが、きっと世の中には、同じ宝石でも、まるでちがうものを心に秘めた人たちがたくさんいるのだろう、と想像させてくれるところも、よい。

 なぜか宝石魔法師しか見えないはずの心の宝石を、悠斗たちとは違うかたちで目にすることができてしまう更紗は、なりゆきで店を手伝うことになる。高価な品ばかりが陳列されており、弁償代のリスクも込みとはいえ、一時間3千円の時給はかなり羨ましい。しかも、惚れ惚れしてしまう美貌の悠斗と、他の同級生たちの知らない時間を特別に過ごせるのである。バレたら総スカンを食らいそうだが、悠斗がカッコいいことは認めつつも、鈍すぎて恋愛フラグをへし折り続ける更紗のキャラクターもいい。更紗の興味は、一貫して、やってくるお客さんに向いている。その心が、闇に飲み込まれてしまわないかどうか。心の宝石を、あるべき姿にとりもどせるか。人のことばかりに一生懸命で、自分のことは置いてきぼりの彼女が、物語を読み進めるほどに愛おしくなっていく。

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 周囲の期待に応えようとがんばりすぎて自分を見失ってしまった人。恋人に二股をかけられていたことを知っただけでなく、自分の親しい友人と結婚することを知った人。母親の心配と愛情という呪いにがんじがらめになっている人。店にやってくるお客さんたちの悩みは、本人にとっては重大事でも、大事件と呼ぶにはやや弱い。もっと大変な人はたくさんいるのだから。自分がもっと頑張ればいいだけなのだから。心を切り替えて、前に進まなきゃ。真面目な人ほど、他人を責めるよりも自分を叱咤激励して、ますます心の状態を悪くしていくだろう。その一つひとつを見逃さず、宝石を扱うように繊細に寄り添いながら、どんなに些細な傷も修復しようとつとめる。それが宝石魔法師のつとめだ。

 がんばりやの人たちが心を研磨しすぎて、すり減らしてしまわないように、優しく導いてくれる彼らのような人たちが、どこかにいてくれたらいいのにと思う。自分の輝きを信じられなくなっているときに、ちゃんとその心には唯一無二の宝石があるのだということを、確認したい。そんなことを思いながら、鎌倉の街を歩いてみたくもなってくる。

 ちなみに、更紗のことを〝自分のことは置いてきぼり〟と書いたが、彼女もまた導かれてやってきた客の一人ではあるわけで、宝石魔法師でもないのになぜ不思議な能力がなぜそなわっているのかも、悠斗との関係性の変化とあわせてぜひ楽しんでほしい。

 そして忘れてはいけないのが、ヴェトロ・フェリーチェの看板猫のティレニア。猫の姿のままで人の言葉をしゃべるどころか、美青年に変身する彼の存在は物語にとっていちばんの癒しである。以前、同じことのは文庫から刊行されている『おまわりさんと招き猫』をはじめとするしゃべる猫の登場する小説を紹介したが(『吾輩は猫である』『長靴を履いた猫』『おまわりさんと招き猫』……「しゃべる猫」なぜフィクションで人気?)、『鎌倉硝子館の宝石魔法師』もそのリストに加えておかねばならない。

(文=立花もも)

 
   

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