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永山瑛太が初の是枝組参加で感じた表現者としての責任 社会に対して目を向け、何をすべきかを考えていく

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永山瑛太が初の是枝組参加で感じた表現者としての責任 社会に対して目を向け、何をすべきかを考えていく

映画「怪物」が6月2日(金)に全国公開される。「万引き家族」でカンヌ最高賞に輝いた是枝裕和監督と、「花束みたいな恋をした」や「大豆田とわ子と三人の元夫」などを手掛け、繊細な作劇で支持を集める脚本家の坂元裕二が初タッグを組んだ本作。郊外の街を舞台に、子供たちの間に起きた些細な喧嘩が、大人たちを巻き込み事件へ発展していく物語だ。本作で体罰教師のレッテルを貼られる小学校教師・保利道敏を演じる永山瑛太は、「最高の離婚」「それでも、生きてゆく」「anone」など、坂元裕二作品にたびたび出演。そんな彼に、坂元脚本と、初参加となる是枝組の魅力、そして本作への参加を通じて生まれた変化について聞いた。

■坂元作品では「やっぱり僕は生きづらさを抱える役なんだな」

──最初に脚本を読んだときの感想を教えてください。

タイトルが「怪物」ということで、どうしても最初は“怪物”を探してしまいました。「サスペンスなのかな?」とか、事件や凶器が隠れていないか、犯人は誰なのかなとか。でも読み進めていくうちに「あ、全然違う話だ」と気付きました。それが坂元さんらしさというか。坂元さんの作品に触れるといつも「この人はまた全然違う世界に連れて行ってくれる」と思うのですが、それを今回も感じて「この人、大好き」と思いましたし、自分が坂元さんの作品にキャスティングされている恍惚感を抱きました。心からありがとうございますと思いました。

──永山さん演じる保利は当て書きだったそうですが、脚本を読む際にはやはり保利に注目しながら読んだのでしょうか?

いや。最初は「誰に何を伝えたいのか」ということを考えながら読んでいて。でも読み終わって、そういうものでもないのだと気付きました。これまでの是枝さんの作品もそうですけど、明確な起承転結があるものでも、“ここで感動してください”みたいなものでもない。ただ、是枝さんが撮るし、脚本は坂元さんだし、キャスティングしていただいた時点でもう答えが見えている。その答えというのは、素晴らしい作品ができるという確信。その確信を、脚本を読んで感じました。保利が当て書きであるということに関して言うと、保利は「自分は一般的な感覚で、一般常識のある人間である」と思いながら教師をしているのに、窮地に追いやられていく。「それでも、生きてゆく」や「最高の離婚」もそうでしたが、坂元さんの作品ではやっぱり僕は生きづらさを抱える役なんだなと。俺、坂元さんとご飯を食べに行っても「生きづらい」なんて言っていないんですけどねぇ(笑)。

──坂元さんとはテレビドラマ「anone」の打ち上げで初めて連絡先を交換されたそうですが、事前に「怪物」という作品や保利という役についての話はされていたのでしょうか?

していないですね。いや、したかな……覚えていないなぁ。そもそも定期的に連絡を取るようになってから、いつも何の話をしているのか覚えていないです。普段は、俺が勝手にポエムみたいなものを坂元さんに送ったりしています。それに対して坂元節の返信が返ってくるのもうれしくて、とても幸せな気持ちになれます。

■「是枝さんだったら映画で日本を変えられるんじゃないか」

──今作が初めての是枝監督作品への出演となりますが、是枝監督の作品にはどのような印象を持っていましたか?

何かの記事で、是枝さんが「僕が作りたいものはテレビドラマではできない。本当は連続ドラマも撮りたいんだけど、テーマとして、テレビで放送できるようなものではない」というようなことをおっしゃっていて。実際『誰も知らない』のような社会性の強い作品を作られていますし、映画で国を変えるという意識を強く持っていらっしゃる監督なんじゃないかなという気がします。ある意味ジャーナリストというか。日本という国が今どういう立場に置かれて、どんなことを抱えているのかというのを客観的な視点で捉えている。そういうものを映画として見せることによって、普段気付けなかったことに気付ける。「自分はこんなことが足りていないんだ」とか「確かに日本ってこのままいくとまずいんじゃないか」とか。本当に是枝さんだったら映画で日本を変えられるんじゃないかというのは、20代前半に「DISTANCE」を見たときからずっと思っていました。

──そんな是枝監督の作品に実際に出演され、近くで演出を受けられて感じたことや印象的だったことはありますか?

僕、是枝さんとはお会いしてもそこまでお話はしないんです。是枝さんと向き合うとそんなにしゃべれなくて。だから今日もこのあと一緒に取材を受けるんですが、ちょっと緊張してます(笑)。是枝さんの現場の話をすると……誰かが怒鳴ったり罵声が飛び交ったりすることが一切なくて。撮影は諏訪湖の近くで、7年に1度行われるという御柱祭のあとに行いました。宿と、保利が務めている学校は湖の反対側で、毎日僕は自分で運転して撮影に通っていたんです。その道中の時間も含めて、保利先生で居られる環境みたいなものが全部整っているなという印象でした。祭りのあとの静けさもありましたし、山に囲まれてすごく綺麗だし、でも夕方になって湖を見ているととてつもなく寂しくもなって。その土地柄も含めて全部が是枝組というか。

あとは、是枝さんと一緒にいて、承認欲求みたいなものがなくなっていく感覚もありました。それがいいのか悪いのかはわからないのですが、お芝居というものがわかんなくなっちゃって。でも「わかんないままでいいや」と思えてきて。キャスティングされている時点で、そのままいればいいということだし、脚本も素晴らしく面白いので、保利先生として何かするというよりも、保利先生として目の前の子供達とただ一緒にいればいいんだと思うようになりました。

──環境も含めて、どんどん自然でありのままの姿になっていくような。

そう。是枝組での撮影は、“俳優としている”ということじゃなかったのかもしれない。もちろんセリフを覚えて、衣装やメイクをして、外見や肉体、健康の維持をするというのはベースにあるけど、あとは現場でセリフを言うだけでいいのかなって。動きたくなったら動けばいいし、もちろん監督もたまに演出を付けてくれるし。撮影初日は高畑(充希)さんとのシーンだったのですが、その撮影を終えて、夜、寝ようとしたら監督からメールがきて。「今日はお疲れ様でした。私はもう保利先生を理解したので、これからよろしくお願いします」って。そのメールをいただいて「じゃあ、もうあまり難しいことを考えずにやらせていただきます」と思いました。そうそう、宿はスタッフとキャスト同じ宿だったんですけど、なぜか僕は監督の横の部屋でした。どういう演出だったのかはわからないんですが。

──最後までわからなかったんですか?

はい。ただ、毎日、現場を終えて部屋に帰ってきても音に気を遣うという生活をしていました(笑)。

■役者として社会に目を向けて、何をすればいいのか考えていくべき

──先ほど、脚本を読みながら誰に何を伝えたいのかを考えながら読み進めていったけど、そういうことじゃなかった、とおっしゃっていましたが、永山さんご自身はこの作品からどういったものを受け取りましたか?

今の世の中って善悪がはっきりしていなくて、みんな困っているんじゃないかなということ。だからみんなで考えるしかないんだよ、他人事じゃないんだよということですかね。今、生活していて「何かがおかしい」とは思うじゃないですか。でも「何がおかしいのか?」「政治家がおかしいのか?」というと、一概には言い切れないことですよね。じゃあどこに向かっていけばいいのか、子供達にどんなバトンを渡すのかは大人たちにかかっている。だからこそ、自分には何ができるのかを生きているうちに改めて考えなきゃいけないなと思いました。

──永山さんは俳優としてだけでなく、映画監督やカメラマンなど表現者として活躍されていらっしゃいますが、そういう時代だからこそ、表現者としてできること、作るべきものはどのようなものだと考えていらっしゃいますか?

癒し系ですかね?(笑)……というのは冗談で。例えば、さっきも言ったように、物事は善悪だけで判断できないですよね。僕は今ドラマで嫌な男を演じていますけど(フジテレビ系「あなたがしてくれなくても」)、その裏側には嫌なやつなだけじゃない何かがある。「この人嫌だな」と思う人でも、もしかして2人っきりで海とかに行ったらすごい面白いかもしれないじゃないですか。そういう想像力をもっと豊かにしていかなきゃいけないんじゃないかなという気がします。俳優を続けていく上では、やっぱりもうちょっと社会に対して目を向けて、何をすればいいのかということも考えていくべきだなと思っています。「僕は俳優なんで、脚本をもらって、ただ演じるだけです」だけじゃ、もう済まないのかなって。

■取材・文/小林千絵
撮影/友野雄
スタイリスト/臼井崇(THYMON Inc.)
ヘアメイク/波多野香織
衣裳/スーツ 594000円 シャツ 75900円 シューズ 88000円
(全てジョルジオ アルマーニ / ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社)
 
   

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