
フランスのマクロン大統領はG7出席後の21日、モンゴルを訪問した。仏大統領によるモンゴル訪問は初。一泊すらしない短い滞在ではあるが、この訪問はさまざまな点で注目に値する。それは何か?
◆ロシアへの圧力
中国とロシアに挟まれたモンゴルは、1992年までソ連の管理下にあった。2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、フランスは、この侵攻への非難を明確に示していない国々と対話する努力を重ねており、今回のモンゴル訪問もその流れに沿うものの一つだ。
また、仏大統領府は、「フランスのエネルギー主権を保障するための、欧州のエネルギー供給の多様化戦略」にモンゴルも関わるとみなしており、フランスの原子力産業会社オラノはモンゴル領土にて、世界最大規模の一つとなり得るウラン鉱山プロジェクトに取り組んでいる。そういう意味でもモンゴルとの関係を大切にしたいところだ。
◆チンギス・ハン博物館を訪問
ところで、フランスのナント歴史博物館は今年10月14日から来年5月5日までチンギス・ハン展を予定している。チンギス・ハンは、13世紀に建国されたモンゴル帝国の初代皇帝だ。遊牧民族の統一から始まったモンゴル帝国は、史上最大規模にまで領土を拡張したことで知られる。
モンゴル国の首都ウランバートルには、2022年10月に設立されたチンギス・ハン博物館があり、ナントの特別展には、そこからも貴重な数百点の品々が貸し出されることになっている。日中だけという短いモンゴル滞在にもかかわらず、マクロン大統領はこのチンギス・ハン博物館にも足を運んでいる。おそらく中国はこれを苦々しい思いで見ていたに違いない。なぜか?
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◆中国の神経も逆なで?
ナント歴史博物館のチンギス・ハン展は、もともとは2020年開催を予定していた。そうして当初は、中国の内モンゴル自治区州都フフホトにある内蒙古博物館から、皇帝の印章や金製品などを含む225点の貸与を受けることになっていた(ル・モンド紙)。ところが、そこに大きく政治的な介入をしてきたのが中国だ。
美術品貸与を管理する中国の公的機関は中国国家文物局だ。この貸与にあたり、同局は複数の修正を要求してきたとされる。具体的には、「チンギス・ハン」「モンゴル」「帝国」といった特定の用語の削除と、説明文や地図を含む特別展関係の文書のすべての検閲だ。それに従えば、地図上でモンゴルが占める場所は「中国北部の草原地帯」と記されることになる。(シアンス・アヴニール誌)
史実の書き換えに通じるこの中国政府の要求を、ナント歴史博物館は拒絶した。そのため2020年に予定されていた特別展は一旦白紙に戻さざるを得なくなった。だが中国のこの態度は、逆に、世界の博物館の団結力を高めることになったと、ナント歴史博物館ベルトラン・ギエ館長は語る(ル・モンド紙)。モンゴル政府をはじめ、ヨーロッパやアメリカ、台湾の博物館から、協力の申し出が相次ぎ、今年10月の開催が可能になったからだ。