
激減していたグレートバリアリーフのめざましい回復や、29種もの絶滅危惧種がレッドリストから外れるなど近ごろ地道な生物保護活動が報われつつあるオーストラリアからまたもうれしいニュースが舞い込んだ。
今回話題になっているのは、地元で絶滅したカモノハシを50年ぶりに迎えたシドニーのロイヤル王立国立公園だ。
じつはこのたびオーストラリアで、固有種であるカモノハシの自立的かつ遺伝的な多様性を取り戻す共同プロジェクトが発足。
野生動物局やWWF、ニューサウスウェールズ州国立公園などが一丸となって始めた再導入プログラムにより、公園そばの川に放ったカモノハシの新たなコロニーが確認できたのだ。
Platypuses return to Sydney’s Royal National Park after 50 years | ABC News
50年ぶりにカモノハシが戻ってきた!歓喜のロイヤル国立公園
50年ぶりにカモノハシが戻ってきた!と歓喜にむせぶのはオーストラリアのロイヤル国立公園のスタッフたち。1879年にニューサウスウェールズ州シドニーに設立、その歴史の長さから地元でも親しまれてるロイヤル王立国立公園。その付近を流れるハッキング川はかつてカモノハシの群れでにぎわっていた。だがそんな光景も50年経った今ではもう幻になっていた。
今月半ばその川に5匹のメスのカモノハシが放たれた。この5匹はニューサウスウェールズ州の州立公園から運ばれてきたカモノハシたちだ。
その目的は単純に元生息域で個体を増やすだけでなく、オーストラリアの固有種であるカモノハシの自立的かつ遺伝的な群れを再び確立するというねらいがある。

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5匹のカモノハシのメスから始める共同プロジェクト
この再導入プロジェクトは、ニューサウスウェールズ州国立公園野生生物局(NPWS)、タロンガ保全協会オーストラリア、ニューサウスウェールズ大学シドニー(UNSW)、WWFオーストラリアの協力で実現した。これは同時にニューサウスウェールズ州で初となるカモノハシ移動プログラムでもある。
なお本プロジェクトは段階的なもの。先に放った5匹のメスがうまく縄張りをもてば続いて4匹のオスが放つという形で進める。
導入されるすべてのカモノハシは健康診断を受け、発信機が取り付けられ、その追跡や監視はUNSW と WWF オーストラリアが共同で行う。

博物学者もありえない生き物と思っていたカモノハシ
哺乳綱単孔目カモノハシ科カモノハシ属であるカモノハシはオーストラリアに生息する水陸両用の小型哺乳類で、原始的な特徴と特殊な適応をあわせもつユニークな動物だ。アヒルのくちばしや足、ビーバーの尾、カワウソの胴体と毛皮を寄せ集めたような見た目はこの動物の最大の特徴でもある。

平べったいくちばしや卵を産むことから、当初は哺乳類とアヒルの創作物だと思った人もいた。
1798 年にヨーロッパ人が初めてカモノハシを発見したとき、イギリスにいた博物学者は当初「その標本はでっちあげ。他の生き物のあちこちをつなぎ合わせたもの」とみなしたそうだ。
しかもその生態は見た目以上にミステリアスで、数少ない有毒哺乳類の1種とされるカモノハシのオスは後足の蹴爪から毒を出し、人間に激痛を与えることまでできる。
ブラックライトの下では青緑色に光り、獲物探しの時は目ではなくゴムのように弾力があるくちばしを使い獲物の生体電流を探し当てる電気探知で行う。そのため水中では目を閉じているなど、およそネタには事欠かない奇天烈な生物なのだ。

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あらゆる動物を超越したような姿や生態とはうらはらに、現在のカモノハシは本来の生息地の破壊により野生下の繁殖が難しくなっており、遺伝的に健康な群れを維持する能力まで低下しつつある。
カモノハシの生存だけでなく今後の繁栄を可能にする取り組み
ニューサウスウェールズ州環境大臣のペニー・シャープ氏は、カモノハシの安全を守る取り組みは「不可欠」としてこう語る。ロイヤル国立公園はオーストラリア最古の国立公園であり、この歴史的な再導入がこの象徴的な種であるカモノハシの保護区の再確立に役立つことを嬉しく思います。タロンガ保全協会オーストラリアのキャメロン・カー最高経営責任者(CEO)によると、カモノハシはシャイで謎めいているところもあるが、干ばつや環境の変化の影響を受けやすく、気候変動の知られざる犠牲者でもあるという。

同氏はこのプロジェクトで、かつての生息域にふたたびカモノハシのコロニーが定着し、深刻な気候変動に直面するカモノハシを守るスキルや専門知識を高められることを期待している。
カモノハシは美しい水の眺めの象徴です。我々はカモノハシの生存だけでなく、今後も繁栄できるよう全力で取り組んでいます。
幸いにも再導入は順調!カモノハシのコロニーを確認
今回の再導入について、ニューサウスウェールズ州生態系科学センターのギラッド・ビノ博士はカモノハシをかつての生息域の公園に戻すことは生態系のバランスを取り戻すことに等しいと述べている。
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なお今月19日、UNSWチームがハッキング川の岸辺に新しいカモノハシのコロニーを確認。やってきたカモノハシは幸いにも順調に定住しつつあるようだ。
健康な種の存続に加え、この先も厳しい環境の変化にさらされるカモノハシを支えようとするオーストラリアの人々。その本気度がうかがえる今回のプロジェクトでたくましく元気なカモノハシがたくさん増えますように。
References:news / interestingengineering / youtube / nsw / newatlasなど /written by D/ edited by parumo