『どうする家康』写真提供＝NHK『どうする家康』（NHK総合）第19回「お手付きしてどうする！」。武田信玄（阿部寛）の死を武田側は秘していたものの、その噂は瞬く間に各地を駆け巡った。織田信長（岡田准一）は即座に反転攻勢に出て、武田に寝返った将軍・足利義昭（古田新太）を京から追放した。そんな中、家康（松本潤）は信玄との激戦で疲弊し、気力が湧かない。
参考：松井玲奈、『どうする家康』お万の人生を感じて 「そうせざるを得なかった背景がある」
第19回ではそんな家康の心の隙間に侍女・お万（松井玲奈）が入り込む。松井演じるお万の人物像について公式Twitterには“神秘的で妖艶な魅力が漂う美しい侍女”と書かれている。湯殿での場面では、お万の汗ばんだ白い肌と、家康の髪をすいたり汗を拭いたりする甲斐甲斐しい姿が繰り返し映し出された。
松井は、元来は“したたかな”お万を演じきった。お万は家康や他の家臣たちからは「うかつ者（うっかり者）」と呼ばれ、愛されている。瀬名は自身の侍女だったお万を「おっとりした、つつましい娘」と表していた。家康や瀬名の目に映るお万の全てが計算づくだったのかは定かではない。とはいえ、物語終盤でのお万の主張を聞く限り、自ずから家康の心の隙間に入り込んだのは確かだ。
お万はごく自然に家康との距離を縮めていく。はじめのうちは家康がハッとわれに返ってお万を下がらせるのだが、あるとき一線を超えてしまった。
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岡崎にいた瀬名（有村架純）がそのことを知る。瀬名演じる有村の表情や台詞の言い回しには、正室としての顔だけでなく、信康（細田佳央太）や亀姫（當真あみ）の母として、そして家康を愛する一人の女性としての顔がある。
お万が家康の子を宿したと知ったとき、瀬名は動揺していたが、信康や五徳（久保史緒里）、亀姫がいる手前、感情を爆発させることはなかった。だからこそ、家康の前ではしっかり怒る。浜松城へやってきた瀬名は、家康の姿を見つけると「フフ……ウフッ」と可愛らしく微笑むが、家康が「あ……やあ」と取り繕うや否や「何が『やあ』ですか！ あほたわけ！」と一喝した。明るく朗らかで争い事が嫌いな瀬名らしく、家康に憤るその面持ちは鬼の形相からは程遠い。けれど、息を荒くして物を投げつける瀬名の姿には、正室の面目を潰されたことへの怒りや悔しさが確かにあった。家康に手を上げようとするが一度はためらうのも瀬名らしい。そして「構わん、ぶってくれ！ たたいてくれ！」と言われ、しっかり強めに頬を叩くのもまた瀬名らしい。
瀬名がお万に会いに出向くと、お万は「お気の済むまでせっかんしてくださいませ」と涙ながらに懇願する。けれど、お万の言葉を聞いた瀬名はフッと笑った。後にお万が語った言葉を借りれば、お万は“おなごの戦い方”で己の欲しいものを手に入れたまで。それを知った瀬名は「才ある子じゃ。これではうちの殿などひとたまりもあるまい」「見事じゃ」とお万を讃えた。
お万は瀬名の前から立ち去る前、強い目でこう語った。
「政もおなごがやればよいのです。そうすれば、男どもにはできぬことがきっとできるはず。お方様のようなお方ならきっと……」
自分がしたことを恥じてはいないと言ったお万は、“おなごの戦い方”があるように政にも“おなご”だからやれることがあると信じている。お万の言葉は、正室としての立場を重んじる瀬名の心に刻まれた。瀬名が岡崎に残ることを決意したのは、家康の行いに腹を立てた妻としての決断ではないが、信康と五徳、亀姫の身を案じる母としての決断でもないように思える。まだまだ政を行うには幼いと思しき信康と五徳とともに、政に関わらんとする正室としての決心にも思えた。と言いつつも、物語の終わりには安らかにお茶を嗜む姿が映し出された。瀬名が何気ない日常を何よりも大切にしていることが伝わってくる。
