top_line

【完全無料で遊べるミニゲーム】
サクサク消せる爽快パズル「ガーデンテイルズ」

米脚本家が大規模スト ストリーミングが変えた業界のエコシステム

NewSphere


 アメリカの脚本家約1万1500人を代表する全米脚本家組合(Writers Guild of America:WGA)が2日、報酬の引き上げなどの待遇改善を求めるストライキを開始。ネットフリックスをはじめとするストリーミングサービスの普及により、脚本家への待遇が相対的に悪化している現状がある。

◆待遇改善要求に対する不十分な回答
 WGAは、ニューヨークを拠点とするWGAイーストと、ロサンゼルスを拠点とするWGAウエストからなる労働組合だ。労働組合に参加するのは、映画・テレビ・ストリーミング・ポッドキャストなどの制作に関わる脚本家や、ニュース報道やオンラインメディアの制作を手がける脚本家など。WGAは、これらのメンバーの創作的・経済的権利を守るために交渉や契約管理を行う。

 WGAは1日、ネットフリックス、アマゾン、アップル、ディズニー、ディスカバリーワーナー、NBCユニバーサル、パラマウント、ソニーなど大手制作会社が所属する全米映画テレビ製作者協会(Alliance of Motion Picture and Television Producers:AMPTP)との6週間にわたる交渉によって、待遇改善要求が受け入れられなかったことを経て、翌日よりストライキを開始することを発表。そして2日、加盟メンバーの98%の承認を得て、ストライキを開始した。

 WGAによる待遇改善要求の内容には、最低賃金の引き上げ、承認前のプロジェクトに関する最低保証、複数回(エピソード)で構成されるテレビ番組における脚本家の最低人数の確保や最短勤務期間保証、海外でのストリーミングサービスにおいてはその国でのサービス会員数に応じた適正な海外二次使用料(residuals)を支払うことなどが盛り込まれている。さらに、AI(人工知能)の使用に関しての規制や、脚本家が制作したコンテンツをAIの学習に使用させないといった要求も含まれた。しかし、制作会社側からの提示は金額的に不十分で、AIの項目など、項目内容によっては要求を全面的に拒否し、代替案の提示もなかった。WGA側の要求が、金額にすると年間4億2900万ドル(約580億円)相当の待遇改善であるのに対して、制作会社側からの提示は8600万ドル(約120億円)程度のものであった。

◆ストリーミングサービス普及の影響
 今回のストライキは、2007年から2008年にかけて100日続いたストライキ以来初めて。前回は、インターネットからのダウンロードやオンデマンド配信といった「新しいメディア」におけるコンテンツ配信の二次使用料の支払い要求が主要課題であった。ネットフリックスをはじめとするインターネットのストリーミングサービスが世界的に普及した15年後の現在、脚本家をめぐるエコシステムも大きく変化している。

広告の後にも続きます

 エンターテインメント業界誌バラエティによれば、2009年から2019年にかけてテレビ番組の脚本家の数は70%増加し、若手の脚本家が多く業界に参入。新人の脚本家でも1週間4546ドル(約61万円)の最低報酬を受け取り、経験者であれば少なくとも週7412ドル(約100万円)の報酬を手にする。年間平均29週という勤務期間で計算すると、若手でも年間報酬13万1834ドル(約1780万円)を受け取る計算で、決して少ない額ではない。(単純な比較は難しいが、日本では、2019年に見直されたNHKドラマの最低脚本料(全国放送、30分)は19万円)

 一方、過去10年の間で、脚本家の報酬は4%減少し、インフレ上昇率を加味すると23%減少したとWGAは報告する。また、ストリーミングサービスでは、シリーズの回数自体が少ないものが多く、スタッフレベルの脚本家の勤務期間は20週。テレビ放送局における平均値29週に比べると、約3割の短縮だ。また、ストリーミングプラットフォームは、コメディの脚本家の報酬に関しては、最低基本保証(Minimum Basic Agreement:MBA)の適応外となっており、彼らには低い報酬が支払われているという課題もある。

 脚本家の報酬構成要素のもう一つが、「residuals」と呼ばれる二次使用料だ。前出のバラエティの記事は、ストリーミングサービスの二次使用料は1000万人が視聴しても10人が視聴しても一律だと指摘する。さらに、コンテンツを安価に「大量生産」するための「ミニ・ルーム(Mini Rooms)」が一般化していることも課題だ。従来、複数の脚本家が作業を進めるライターズ・ルームでは、7、8名が作業するのに対し、ミニルームでは2、3人が作業するという。若手の脚本家が制作現場に呼ばれることはないケースもある。ニューヨーカーは脚本家の状況を「悲惨だ」と表現する。

 脚本家が、ファストファッションのサプライチェーンの歯車になりつつあるという懸念がある。視聴者がいつでもキャンセルできるサブスクリプションの事業モデルにおいて、ストリーマーは、視聴者を飽きさせないために迅速に、新しいコンテンツを提供し続ける必要があるからだ。利益を拡大させるためのコストカットのプレッシャーもある。ストライキが長引けば、ストリーミングサービスを含め、すべての番組に影響が及ぶ。番組制作会社が中長期的な経済損失をどう見極めるのかが、ストライキ終了の鍵を握る。

 
   

ランキング

ジャンル