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沢田研二の名演が光る、食べて生きる素晴らしさを綴った人生ドラマ!—「土を喰らう十二カ月」

キネマ旬報WEB

「土を喰らう十二カ月」(5月10日、Blu-ray&DVD発売、レンタルDVD同時リリース)は、作家・水上勉の料理エッセイ『土を喰う日々-わが精進十二ヵ月-』を原案に、「ナビィの恋」(1999年)の中江裕司監督が、自然と共に生きる作家の1年間を沢田研二主演で描いた人生ドラマである。

 

季節の野菜を自分で料理して生きる主人公

信州の山荘で、犬のさんしょと暮らす作家ツトム(沢田研二)は、畑で育てた野菜や山で収穫してきた山菜を使い、少年時代に禅寺で習い覚えた精進料理を作って生活している。彼の元には時折、編集者の真知子(松たか子)が訪ねてきて、彼女に料理を振る舞い、一緒に食事をすることがツトムにとって何よりの楽しみだった。真知子はツトムと一緒に暮らすことを望み、ツトムもその気になっていくが、やがて二人の想いに違いが生じていく。

〈二十四節気〉になぞらえてツトムの1年にわたる生活を追いながら、自然の恵みと共に生き、あることがきっかけで死と向き合うようになるまでの日常を映し出している。ツトムと真知子の“大人の恋”の行方は物語としてあるが、元がエッセイだけに作品の重点は、あくまで“食べて生きる”ことと、“生きて死ぬ”ことを実感していく、ツトムの日常描写に置かれている。ここではその彼の日常を、精進料理をこしらえていく姿を通して描いている。

 

沢田研二が見せる、存在感溢れるナチュラルな演技

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それだけに主人公のリアルな存在感が重要になるが、ツトムを演じた沢田研二は子芋を洗い、筍の皮をむき、ごま豆腐を作るために汗を流しながらすり鉢で胡麻をするなど、精進料理を作る一つ一つの工程を、食材を大事にしながらこなしていく様がとても自然。彼の作る料理は炊いた筍に木の芽をたくさん乗せたものなど、どれもシンプルなものばかりだが、間違いなく美味しいことが伝わってくる。ツトムの日常は食材を収穫し、犬のさんしょに餌をやり、食事を作り、原稿を書いて、夜暗くなれば寝るという、今の情報化社会と対極にある、余計なことをそぎ落としたもの。それだけに彼が食事を作り、食べることに向ける秘かな情熱が心地よくて、自然と生きることの楽しさを観る者に実感させる、沢田研二の在り様が素晴らしい。またある事故が原因で死と向き合ってから、孤独の中に生と死を実感していくときの、達観とも死への決意ともとれる彼の表情も忘れ難い。この映画は撮影に1年半かけたというが、その四季の移ろいの中でツトムを演じた沢田研二もまた、季節の一部として存在している。彼はこの演技で『キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞』や毎日映画コンクールの男優主演賞に輝いたが、それまでのスターの顔を脱ぎ捨てて、自然と共生する作家になりきったことで、表現者として新境地に達したと言える。

真知子に扮した松たか子も印象的。ツトムが料理を作るときの良き助手でもある彼女は、何よりできた料理を食べる姿が見事。美味しそうに料理を頬張る彼女を見ているだけで、幸せな気分になる。中江監督は映画を撮っていて〈好きな人と食う飯がいちばん美味い〉と思ったそうだが、ツトムと真知子の食事のシーンを見ていると、その言葉に嘘がないことがわかる。作家と編集者というだけでなく恋人同士でもある二人が、料理を通してさらに心が通っていく雰囲気が伝わってくる。

他にもツトムの義母チエを演じた奈良岡朋子、ツトムに山荘で自給自足する生活を教えた師匠の大工に火野正平、ツトムが禅寺で修行していた時の和尚さんの娘に檀ふみなど、ワンポイントで登場するベテラン俳優たちが、味わい深い演技を披露している。作品全体がいろんなものを盛り込むのではなく、登場人物たちを取り巻く自然以外は極力情報を排除して、必要最低限のものだけで映し出した、食べて生きることの喜び。料理研究家・土井善晴による美味しそうな料理を含め、観ていて目も胃袋も心も豊かになる贅沢な作品だ。

 

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