
ブエノスアイレスの高齢者施設では、ビンゴをプレイする人々が震える手でカードにマーカー代わりのボタンを載せている。小さな容器には賭け金の小銭と低額紙幣が入っているが、これで買えるものは日に日に少なくなっている。
アルゼンチン首都近郊の中流階級が暮らすカバジートとビジャ・クレスポのレクリエーションセンターでは、月に2度このようなビンゴ大会が開催されており、プレイする高齢の年金生活者を夢中にさせている。参加する男女はいずれも80歳を超えているが、彼らは今、定年前には考えられなかった状況に置かれているという。
ここを運営するベティ・サントゥッチさん(85)は「このセンターに集まっているのは、中流階級の人たちです。今は、かつてできていたことの多くが奪われています。『無料の薬をください』なんて、これまで生きてきて初めてでした。ほかにどうしようもなかったのです」と話す。
アルゼンチン国立統計調査研究所は先日、3月の月間インフレ率が7.7%だったことを発表した。これは2022年同月の6.5%からさらに上昇している。アナリストによると、2023年の年間インフレ率(国際的な共通指標)は世界最高水準の110%となる見通しだ。
同国政府のガブリエラ・セルッティ報道官は「現在我々が目にしている数字は、(ウクライナでの)戦争の国際価格への影響と、国内史上最悪の干ばつという最悪の瞬間の結果である」「私たちは、それが私たちを傷つけ、占領し、日常生活や各家庭にどれほど影響を及ぼすかを知っている」とツイートしている。
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最も深刻な打撃を受けているのが、アルゼンチンで定年退職した高齢者だ。その85%は月額平均5万8500ペソ(約3万6000円)の公的年金を受け取っているが、この金額では食費、薬代、そして家賃といった生活費の3分の1をまかなうのがやっとだ。
85歳のパウリナ・ナフニュデルさんは「家賃も払えない、生活費も払えない、サービスも受けられない、でも食べていかなければなりません。今は2人の子供が仕送りしてくれています。でも、長年働いてきただけに、恥ずかしいというよりも悲しくなりますね」と語る。
アルゼンチンの年金制度は南アメリカで最も進んでおり、退職後の年金は賃金と税収によって計算される賦課方式になっている。2022年1月から2023年3月にかけて年金額は72.5%上昇したものの、同時期の物価上昇率は100%を超えた。
アルゼンチンのコンサルティング会社、フォーカスマーケットの調査によると、数年に及ぶインフレを経た現在、アルゼンチンの最低年金を米ドルに換算すると、この地域でベネズエラに次ぐ最低水準に位置しているという。
高齢者センターのアナ・ファルコーネさんは「最低限の年金だけでは、生活すらままなりません」とこぼす。
メルセデス・ビリャファニェさん(80歳)は「私たちリタイア組は買い物に行っても、キロ単位で食料を買いこんだりはしません。タマネギ1個、ジャガイモ1個というように、1個単位で買うのです。1キロになるほどの量にはなりません。今の時点で、希望はありません」と語る。
2023年5月2日