
ドイツのベルリンで、すべての利用者が市内のプールで胸を隠さず泳ぐことが可能になる。「市民全員に平等な権利を」という、多様性や反差別を重んじる当局の判断だ。実はドイツでは19世紀から続くヌーディスト文化があり、これを機会に下火だった裸文化の復権が期待されている。
◆差別だ!女性だけ不自由なルールに苦情
CNNによれば、2022年12月にある女性からベルリンのオンブズマン事務所(政府に対する個人の苦情を調査する機関)に「プールで胸を出して泳ぐことを拒否された」という苦情があった。当局は、この女性が差別の被害者であったことに同意し、ベルリンのプールを利用する女性やノンバイナリー(性自認が男性・女性という典型的な分け方に当てはまらない人)を含むすべての人が、トップレスになることを許可すると発表した。
2021年にも、ベルリンのウォーターパークでフランス人女性が胸を隠すことを拒否したため退場を命じられるという事件が起こっている。この女性は、男性だけが暑いときに服を脱ぐ自由があるのは不平等だと訴え、金銭的賠償を求めたということだ。
ベルリン州政府は「訴えが認められた結果、ベルリンの水泳施設では、今後は施設利用や水泳時のルールを男女平等なものにしていく」という方針を示した。ちなみにドイツ中部の都市で、すでに女性の公共プールでのトップレスが昨年夏に認められている。この時は、自分は男性だと主張する人が胸を隠すことを拒否してプールへの立ち入りを禁止された。性同一性論争となったことで、市がトップレスOKの決断を下したという。
◆裸の付き合いは健康的! 英米人とは違う価値観
実はドイツには、ドイツ語の略称でFKK(エフ・カー・カー)という「体を解放する文化」がある。これは裸を性的なものと捉えるのではなく、共同体として野外で裸になって運動したり自然に触れたりすることでもたらされる、健康効果を重視するものだ。
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ガーディアン紙によれば、FKK運動は19世紀後半に始まった。ナチスに弾圧された時期もあったが、第二次世界大戦後に復活し、1970年代に最も多くの信奉者を集めたという。これまで70年以上にわたり裸になれるビーチ、湖畔、キャンプ場などが法律で確保されてきた。
FKKにより裸を受け入れる習慣は国民の精神に浸透した。イギリスの社会心理学者によれば、ドイツ人はヌードに寛容で、裸の人に分け隔てなく接する。英米と違い、ドイツでは公共の場で裸になる人は自動的に危険な人、異常な人とは見なされず、単に人間の一つのあり方として受け入れられるのだという。(CNN)
FKKの影響を最も受けたのは、旧共産圏の東ドイツだ。制限された体制の下で暮らす人々にとって、裸になることの自由は、より大きな解放感をもたらすものだったのではないかとベルリンの英字誌エクスベルリナーは述べる。CNNは、共産主義国家からの逃避の形だったとしている。
◆社会の変化が影響 ヌード文化は消えるのか?
もっとも、現在ではFKKの専用ビーチは縮小されFKK協会の会員も減り、高齢化しているという。ベルリンのFKK団体の会長は、18歳から30歳の間で最も会員数が減少しているとする。この時期は自分のイメージに最も敏感だとし、ソーシャルメディアがけん引する完璧な体への欲求や、公共の場でのヌードを許容しない多文化社会の到来が、会員減少の原因だとガーディアン紙に語っている。
エクスベルリナーによれば、多くの東ドイツ人は、FKKの衰退は全裸で日光浴する人に下品な視線を向ける西ドイツ人と、心配性の外国人のせいだと非難しているという。よって、男女平等の実現というベルリン当局の目的とは違ったが、女性にトップレス遊泳を許可する判断はFKKにとっては朗報だったかもしれない。ドイツのヌード文化の今後の行方に注目したい。