
姿を消した熊岡愛瞳の親友、三輪葵を探し出すために、同じように友人が行方不明になったと話す上村と接触し、ともに事件の手掛かりを探ることに。そこで彼らは「カシマレイコ」の都市伝説を耳にする。この噂に何かを感じたはぐれ者の刑事・伏見は、犯人を見つけ出すべく都市伝説の謎を追う。※本記事は、白崎秀仁氏の小説『カシマレイコの噂』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
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「前にも言ったが、カシマレイコって妖怪は、俺たちの間でも知られた存在じゃねぇんだ。何しろ、見たヤツがいねぇんだからな、カシマレイコを」
和風系創作居酒屋、闇酒屋の厨房で、まかない飯を食べながら、人面犬が言った。
人面犬は、都市伝説として1990年ごろに世間を騒がせた、体は犬、顔は人間という妖怪で、伏見とは以前、ある事件を通して知り合い、ともに事件を解決した過去がある。それ以降、柴犬の体に中年男性の顔という、この奇妙な妖怪は、伏見の情報屋として活動している。
その人面犬にまかない飯を出している闇酒屋は、人間と妖怪のハーフである店主、波多野仁(はたの じん)が経営する店で、人間の世界で共存する妖怪の他、人間たちも普通に通ってくる。店として分類するなら、和風系創作居酒屋といったところだろうが、バーのような雰囲気もあり、実際、酒の種類も豊富で、客の好みに合わせて、カクテルも作ってくれる。
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「従業員でもないくせに、なんでまかない飯食ってんだおまえ……」
会話より食事に夢中の人面犬を見ながら、伏見は言った。
「今日の飯がたまたま、まかない飯だっただけだ。いつもってわけじゃねぇ」
「仁さんへの情報提供の対価とはいえ、従業員でもないのに、厨房で飯を食ってるおまえを見てると、なんというか……」
「なんだ伏見、なんか言いたいことがあるなら言え」
「いや、いい。で、他に情報はないのか?」