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辻村深月、原恵一、吉野耕平、梶裕貴が語り合う『かがみの孤城』&『ハケンアニメ!』の“刺さる”魅力と、創作へかける想い

MOVIE WALKER PRESS

直木賞作家の辻村深月の同名ベストセラー小説を、「クレヨンしんちゃん」シリーズなどで知られる原恵一監督がアニメーション映画化、第46回日本アカデミー賞で優秀アニメーション作品賞を受賞し、ロングヒットとなっている『かがみの孤城』(公開中)。そして同じく辻村の小説を吉岡里帆主演で実写映画化し、第46回日本アカデミー賞では優秀作品賞など9部門で優秀賞を受賞した『ハケンアニメ!』(22)。

両作品がコラボする一夜限りのスペシャルイベントが3月27日に新宿ピカデリーにて開催され、『かがみの孤城』の原監督と『ハケンアニメ!』の吉野耕平監督、両作品に出演した梶裕貴、そして辻村の4人が登壇。原監督と吉野監督が互いの作品の感想を伝え合ったり、4人それぞれの“作品づくり”にかける想いが熱く語られていった約40分のトークの模様を、完全版としてお伝えしてする。

■「“刺さった”ことが感じられた時に、辛い思い出は一瞬でなくなる」(原)

――まずは原監督にお聞きします。『ハケンアニメ!』をご覧になっていかがでしたか?

原恵一監督(以下、原)「以前、『かがみの孤城』を制作中に『ハケンアニメ!』へコメントをお願いしますと頼まれまして拝見しました。実は今日も出かける直前におさらいをしてきました。いまNetflixで観られるもので。改めて観て、僕もアニメ業界に入って40年。自分のなかで、過ごしてきたいろんな思い出――楽しいものばかりじゃなく、辛いものの方が多かったりするんですけど、そういうものに思いを馳せるような内容だったので、正直皆さんのように楽しく観られたわけじゃないんです。

劇中で王子監督(中村倫也)が言うように、この仕事は人の心を動かす仕事なんだって。だから大変なのは当たり前なんだと思うようにしています。でも吉岡さん演じる斎藤瞳監督の台詞で、『刺され』っていうのがある。“刺さった”ことが感じられた時に、その辛い思い出は一瞬でなくなる。そういう仕事ですね、こういう映画づくりやアニメづくりというものは。だから目指す価値がある仕事なんだと思っています」

辻村深月(以下、辻村)「私自身、子どもの時に原さんが作ったアニメを見てきたんです。その時に、言語化できていたわけじゃないですけれど、大人が真剣に作ってくれたものだということが私のなかにちゃんと刺さったんです。子どもに教えるには難しいかもと思わずに、大人側の真実を子どもが覚えていていつか届くのだと演出されていて。

なので子どもと大人の立場で見てきた自分が、いま大人として原さんと一緒に映画づくりをできていることがとてもうれしく思いました。今日は会場にお若い方も来ていると思いますが、なにかが刺さっていつかものづくりの仕事につきたいと思ってくれた人は、いずれご一緒することもあるかもしれない。ものづくりって、そういう幸せな循環とめぐり合わせのなかにあるんだなと思います」

梶裕貴(以下、梶)「僕も原監督の作られた作品を子どもの頃から拝見していた人間の一人ですので、本当に繋がって、続いていくものだなと感じました。辻村先生の原作も読ませていただき、声優として、今度は作品づくりの一員となって皆様にお届けする役割を任せていただけるというのは夢のようなことです。自分が当時感じてきた、あの感動や衝撃を皆さんにそのまま届けていきたい。僕も声優生活20年くらい。僕から次の世代に繋がっていったらいいなと、改めて感じているところです」

■「當真あみさんがこころをやり遂げた時に、原さんが『普段得られない一体感を得られた』と言ってくださった」(辻村)

――吉野監督は、『かがみの孤城』をご覧になってどのように感じましたか?

吉野耕平(以下、吉野)「原作を先に読ませていただいた時に、これをどうやって映像化するんだろうと考えました。文章上最後に繋がっていく伏線というかトリックが、実写の場合ではすごく難しい。でもアニメは抽象化や具体化のバランスが緻密に計算して表現できる。原監督が実際に作られた作品を観て、自分がどうするんだろうと考えたことの正解をいただいたような気がしました。

それに扱っているテーマもデリケートなもので、誰かに肩入れすべきなのか、フラットにするべきなのか。でもここは正しいねと背中を押してあげるべきなのか。原作の持つすごく複雑な部分についても、こうするのかという正解を見せていただいた気がして。そういった意味で、個人的にはすごくスリリングな体験をさせてもらいました」

原「実写とアニメーションは作り方が違うんですよね。僕も実写映画(『はじまりのみち』)を撮らせていただいたことがあるのですが、スピード感から違う。アニメの現場では昔よりもいまの方が分業化が進んでいて、一度も会わないスタッフもいるぐらいです。なので『ハケンアニメ!』のように、スタジオのなかで一体感に包まれる感じは、なかなか現実にはないんですよね。スタジオ中が一斉に同じ方向を向くどころか、なんで一生懸命やってくれないんだという怒りばっかりなんです(笑)。でもアニメーションを作る現場を実写映画にした時には、あのクライマックスが正しいと思いますし…なんの話でしたっけ?」

一同「(爆笑)」

原「本当に、観たばかりなので色々と思い出してしまって…(笑)。あの作品のあの時はああだったな、とか」

辻村「取材の時にたくさんの監督さんやアニメに関わる方々にお会いしたんですけど、皆さん『ハケンアニメ!』を観たら心拍数が上がると仰っていました。普通に感動したりではなく、サスペンスだったと…(笑)。アニメ業界の細部のリアリティに、映画が届いているということなんだなと感じました。

ですが『かがみの孤城』の時には主人公の声を担当した當真あみさんが声優初挑戦で、當真さんがアフレコする現場に私も行かせていただいて、ちょうどオールアップの瞬間に立ち会うことができたんです。その時に原さんがアフレコを見ながら心のなかで『君はいまヒロインになるんだ』と念じていたと後で伺いました。こころが強いヒロインになっていくところと、當真さんが初めての声優でこころをやり遂げる姿を見守ることができた時に、原さんが『普段得られない一体感というのを、あの瞬間は得られた』と言ってくださったことがすごくうれしかったです」

原「あれは本当に貴重な時間でした。どんどんOKテイクが重なっていって、あとは最後だと。それに向かってスタジオの空気が熱くなっていって、オールアップを伝えてお礼を言いに中に入ったら、當真さんが綺麗な涙を流していた。それが印象的でうれしかった。たぶん終わってホッとしただけじゃないんだと思う。こころとさよならしないといけない。これだけ自分のなかで育ててきたキャラクターと、これでもうさよならなんだという気持ちがあって涙が出たんじゃないかと想像しました」

■「『ハケンアニメ!』で一般の方にもアニメの現場を感じてもらえて、身が引き締まる思いでした」(梶)

梶「僕もその涙を肉眼で見てみたかったです…。本当に素敵な女優さんだと思いますけど、声優初挑戦で、体を使ったお芝居と声のお芝居は表現方法がまるで違う。その難しさもあったと思います。いまのお話を聞いていると彼女を中心にしたドキュメンタリー要素もあったんだろうなと感じました。僕も新人の頃にやらせていただいた役って、本当に役と一緒に成長していったんだなと後から気付くことがあるんです。

あの瞬間に一緒に壁にぶつかって悩んで、最後まで辿り着いた。周りの先輩方とか制作スタッフの方々とかは、きっとそれを加味して僕を選んでくれたんじゃないかと。技術はやればやるほど磨かれていくものだけれど、経験値とは関係なく役とシンクロする、その時その瞬間でしか出せない魅力というものが必ずあると思います。いまの僕でも、いまこの瞬間にしかできない役がきっとある。そういうものが當真あみちゃんとこころは『かがみの孤城』でガチっとハマったんだろうなと感じました」

辻村「『ハケンアニメ!』のアフレコシーンに梶さんが一瞬出てくる豪華さが好きで、吉野さんと後から『あれ本当はカメラ寄りたいですよね』って話していたんです」

吉野「そうなんですよね。使いたいって思ったんですけど、そうすると物語の本質から離れてしまうし…」

梶「そうでしょうね(笑)」

辻村「声優さんのそこだけ別カットで編集したものを観たいという話をしていました」

梶「是非是非(笑)。僕も『かがみの孤城』の番宣でA-1ピクチャーズの制作現場を訪ねさせていただいたんですが、『ハケンアニメ!』のあとだったのでアニメを作るということがどれだけ大変なことか。コロナ禍の前は、作品が終わるごとに打ち上げがあったので関わった全員と会えました。それが多くの人が関わってきたんだと気付くポイントになっていました。でもコロナ禍でそれが難しくなった時に『ハケンアニメ!』を通して、我々にも一般の方々にもそれを感じてもらえて、とても身が引き締まる思いでした。そういった意味でも、大きくて素敵な作品だったと思います」

■「2つの作品が刺さってくれて、自分の弟や妹がいっぱいいるような気持ちになりました」(辻村)

――原作者である辻村さんは、生みだした作品が映画として皆さんに届いていることについてどのように感じているのでしょうか?

辻村「もう、この2つの作品がそれぞれ、すごくいろんな人に刺さってくれたという感じがあります。いまこの場を設けていただいたうれしさもそうですし、作品を観てくれた人があとから両方原作が辻村だと気付いて、信頼感しかないと言ってもらえたことがすごくうれしくて。いろんなところに自分の弟や妹がいっぱいいるみたいな感じになりました。

『ハケンアニメ!』がNetflixで配信されて、配信で観たという人からも反響をいただいて、またこうしてスクリーンで上映もしていただける機会があって。そこに両方の作品の監督も、梶さんも来てくださった。そうだ、私だけじゃなくて梶さんも両方に関わってくれたんだと気付いた時に、なんて頼もしいと思ったことか。声優業界やアニメ業界、映画業界に、頼もしい仲間ができていたんだなと伝わってきました。もちろん作品を観てくださった皆さんも仲間です。どんどん映画を観てくださる方が、自分の映画だと思ってくれる作品になったので、いまも旅の仲間が増え続けている状態でとてもうれしいんです」

原「辻村さんの原作の魅力っていうのは、ミステリーであるしファンタジーであると同時に、どこか普遍的な若者の悩みや辛さを描いているから、これだけ多くの読者や観客を獲得できているんだと思います。ちゃんと読む人や観る人に寄り添ったものを描いている。

ちょっと話が逸れちゃうんですが、『ハケンアニメ!』のなかで2つの作品が同じ時間の裏表で視聴率を争っているという構図は、たぶんいまの若いお客さんにはよくわからないんじゃないかと。僕なんかが20代の頃には、視聴率はそれだけで評価されてしまう数字で本当に憂鬱なものでした。良ければいいけど、悪かったらプロデューサーから『なんで落ちたんだ』と言われて、本当につまらないテコ入れとかアイデアが出されちゃうんですよ。これが本当に信じられないくらい低レベルなのに、本気で言ってくるから嫌になっちゃいますよ(笑)。

一番記憶に残っているのは『エスパー魔美』をやっていた時に、途中から別の局で『ミスター味っ子』が始まったんですよ。そしたらそっちに数字が取られてしまって、『エスパー魔美』は意識的に地味な作品にしていたのですが、『ミスター味っ子』の方はものすごい派手な演出をする作品で。シンエイ動画にはみんなが集まってくつろぐ場所にテレビが置いてあったんですけど、『エスパー魔美』が始まる時間になるとみんな集まって『ミスター味っ子』を観て、『すげえ!カツ丼が光ったぞ!』って笑ったりして(笑)」

■「監督も演出も普通の人間。結果を残さなきゃいけないプレッシャーがある」(吉野)

吉野「昔からアニメ業界のこういう裏話を聞くのが好きだったんですけど、まさかここで新たなエピソードが聞けるとは思わなかったです(笑)。しかも自分が観てた『エスパー魔美』と『ミスター味っ子』の裏にこんなことが…興奮しちゃいます。でもやっぱり監督と呼ばれる人も演出と呼ばれる人も普通の人間。なので結果を残さなきゃいけないプレッシャーがありますよね。その辺のヒリヒリする痛みが『ハケンアニメ!』の原作では地に足ついた感じで、社会人として立ち向かわねばならないものとして描かれていた。そこに自分もリアリティを感じてワクワクしたんです。

ちょうど前作の『水曜日が消えた』を撮り終えたばかりだったので、プロデューサーからのプレッシャーに苦しんでいましたし(笑)。言っている側も苦しめようとしているのではないけど、監督から見ると『なんだそのアイデアは?』ってこともあったり、そうした制作現場の混乱とかヒリヒリ感がすごくありました。ちょうどその時僕が心の拠り所にしていたのは、原監督がかつて湯浅政明監督にかけた言葉だったんです。『アニメーション監督 原恵一』で読んだのですが、湯浅監督が一作目を撮る時に『いまさらジタバタしたってしょうがないよ。いま持ってるものが出るだけだから』と。それが自分の一作目のヒリヒリに繋がり、『ハケンアニメ!』のヒリヒリに繋がって、いまの自分に至っています」

原「光栄です」

吉野「なので今日はいろんな意味でうれしくて。先ほど楽屋で最初にご挨拶をして、その本にサインをいただいてしまいました(笑)」

一同「(笑)」

原「いまの日本のアニメはレベル的には世界一です。全部じゃないですけど、できのいい作品は間違いなく世界一のクオリティで作ってる。ですが、僕が業界に入った時にはこんな時代が来るなんてまったく想像できなかったんです。アニメもそれほど作られていなくて、映像としては実写に比べて低く見られていました。とくにシンエイ動画は藤子・F・不二雄先生の作品が多かったので、同業者からも子ども向けだと馬鹿にされていました。意気込んでアニメ界に入ってくる人はもっと尖った現場に入りたがっていましたけど、僕はF先生の描かれたものががそういう作品に劣るとはまったく思っていなかったし、わかっていない奴らが馬鹿だとすら思っていました。

でもちゃんとそういう時代がきました。いまではF先生の作品を大人が観ても、誰もおかしいとは思わないじゃないですか。世界中で認知されていますし、すごく不思議な気持ちです。僕自身も海外に行く機会も増えましたし、行くとみんな僕の作品を遡って観てくれている。だからもうちょっと若い時に、そういう時期を迎えたかったかもしれないですけど…。でもそこに後悔はないですね。

いま63歳で、フリーランスとしてやっている。フリーランスに許されていることは、やりたくない仕事はやらなくていいこと。その状態で、周りに媚びるようなことをしないで作品を作れるのは、自分のいまのキャリアとこれまで作ってきた作品が自分の看板になっているから。その辺のスタイルはあまり変えたくないかな(笑)」

取材・文/久保田 和馬
 
   

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