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溝端淳平、『どうする家康』で記憶に残る名演 王子から暴君へ、氏真の闇堕ちっぷり体現

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『どうする家康』(写真提供=NHK)

 『どうする家康』(NHK総合)の第12回「氏真」における溝端淳平の演技は、まさに“名演”と呼べるものだった。いや、“名演”としか言いようがないものだった。少なくとも筆者は、彼の力のこもった演技の素晴らしさを前にして、涙を禁じ得なかった。溝端が演じているのは、この回のタイトルロールにもなっている今川氏真。放送が始まってからここまでの本作において、もっとも大きく複雑な問題を抱えていた人物だ。そして放送のたびに、SNSを中心に話題を呼んでいた人物でもある。

【写真】『どうする家康』第12回での氏真(溝端淳平)

 氏真とは、今川義元(野村萬斎)の息子であり、今川家の人質だった主人公・家康(松本潤)とは兄弟のような間柄にあった。父譲りの品格を持ち、武芸にも学問にも秀でている彼は、いつまでも頼りない家康とは対照的な人物だ。ところが、尊敬する父を桶狭間の戦いで失い、そのうえ家康が織田信長(岡田准一)が率いる織田勢についたことで一変。怒りや妬みの感情が爆発し、目も当てられないほど、聞くに堪えないほど、彼の振舞いや言動のすべてが狂気じみたものになってしまった。王子から暴君へーー氏真の闇堕ちっぷりを体現する溝端の演技には称賛の声が集まったものである。

 溝端の演技の変化はかなり急で、なおかつ著しいものだった。いくらドラマとはいえ、史実をベースにしたフィクションだ。氏真の変化をどれくらい示すべきなのか、そのさじ加減は非常に難しいものだったのではないかと思う。第1回「どうする桶狭間」から登場し、いかに家康が頼りない人物なのかを際立たせるため、溝端の声にも表情にも緊張感がみなぎっていた。もしかすると、父を演じる野村萬斎を前にした彼のリアルな反応だったのかもしれない。実際に溝端は本作の公式ガイド『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 前編』にて「(野村萬斎の)一挙手一投足に刺激を受けながら芝居をしていますが、その緊張感がそのままでているかもしれません」と語っている。

 義元といえば、家康の歩む道にも影響を与えている存在。そんなキャラクターを能楽師である野村萬斎が舞って(演じて)みせたのだ。俳優個人とキャラクターとの結びつきの強さが生み出す力というものを、視聴者の誰もが感じたことだろう。一番近くにいた溝端も例外ではないはず。家康サイドの滑稽さも相まって、氏真の気品あふれる佇まいは強く印象に残ったわけだ。

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 それが第2回「兎と狼」でガラリと変わる。氏真自身の変化の理由は先に記したとおり。父の死と、弟分である家康の裏切りだ。溝端の声は震え、顔は常に痙攣しているかのよう。目の開き具合によって形状を変えることは誰にだって可能だが、それにしても完全に光が失われていた。以降はずっとそのような状態。彼の演技の硬質化は、第1回「どうする桶狭間」のときとは完全に別種の緊張を私たちに強いたのだ。あそこまで自らを追い込む溝端の心身が心配になったくらいである。

 そして、氏真と家康がついに対峙した問題の第12回「氏真」。今川勢と徳川勢が激突するその最前線に氏真も立ち、さらに堕ち、狂い、憔悴していく過程を、溝端はたった1話だけの中で展開させてみせた。劇中で“もっとも変化した男”である。感情を爆発させるシーンが続くが、それは力演ではあるものの、『どうする家康』という作品世界の枠組みからはみ出すような熱演ではない。本作における氏真の役どころは、あくまでも家康の成長を促す存在なのだ。溝端の変化していく演技の流れは、まるで演劇を観ているような感覚にさせられるものだった。彼の姿を見ていると、お茶の間にいながらこちらまで非常に疲れてしまうのだ。氏真と家康が言葉を交わし合う物語の展開にも涙したが、何よりも溝端のこの演技に泣かされたのである。

 溝端より一つだけ年下の筆者は、リアルタイムで彼の活躍を追ってきた。デビュー作『生徒諸君!』(2007年/テレビ朝日系)での瑞々しい姿から早くも16年。このところはバイプレイヤーとしての活躍ぶりも目立っている。氏真と同様に、楽な道のりではなかっただろう。時代が変われば俳優に求められるものも変わってくるし、新しい世代の者たちが次から次へと登場してくる。30代に入ってから頭角を現す人間もいる。『どうする家康』に溝端淳平が刻んだ名演は、これからの彼の頼もしい俳優活動を予感させるものだ。演劇界では重宝されている若き才能の一人だが、そろそろ映画界でもその力をふるってほしい。

(折田侑駿)

 
   

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