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真梨幸子『4月1日のマイホーム』インタビュー「実際に起こり得る恐ろしいシミュレーションとして読んでほしい」

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――その設定だけで1冊書けそう!

真梨:そうなんですよね。てんこ盛り(笑)。私はメインのおかずがひとつ入ったとんかつ弁当や唐揚げ弁当ではなく、幕の内弁当のようにおかずがたくさん入っている物語のほうが読むのも書くのも好きなんです。飽き性なのでしょうね。

――謎の体調不良を訴える隣人に、「狂犬病?」「土地の因縁?」と住人たちが怯える様子が描かれます。コロナ禍を経験した分、こういった「見えないもの」の恐怖に共感する読者も多いのではないでしょうか。

真梨:未知の新型ウイルスも確かに怖いけれど、昔からあるものにも十分気をつけてと伝えたかったんです。たとえば、性感染症の梅毒は長らく症例数が減少したと思われていたのに、2021年に急増しました。SNSを利用し、気軽に性行為できるようになったことが原因のひとつと言われていますが、マッチングアプリなんてそれ以前からあったし、どうして増えたのか不思議です。もしかしたら「シン・バイドク」みたいな新しい株があるのかしら、と思ってみたり。ウイルスや寄生虫って、すごく賢いですよ。宿主を操ると言いますしね。たとえば、カタツムリに寄生するロイコクロリディウムは、カタツムリの体内で派手な動きをします。その影響でカタツムリは日当たりのいい葉っぱの上など、最終宿主である鳥に見つかりやすい場所へ出る。つまり、カタツムリが鳥に食べられるようにロイコクロリディウムが操るわけです。そんなことを調べているうちに、もしかしたら私たち人間もウイルスとか寄生虫とか、何かに操られているんじゃないかと思い始めました。ワクチン推進派と反ワクチン派など、人間を分断させることが新型コロナウイルスの真の目的だったのかもしれないな……と。

――そうだとしたら怖いですね。そして本作の結末も本当に恐ろしかったです。

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真梨:私はデビュー作『孤虫症』で寄生虫をテーマにした小説を書きました。エログロやバイオレンスな部分が注目されがちですが、自分としては寄生虫への注意を呼びかけるつもりだったんです。本作は、その流れを汲む作品ですね。私の小説は、実際に起こり得る恐ろしいことのシミュレーションとして読んでもらえたらいいのかもしれません。そうすれば同じようなことが起こったとき、ある程度は対処できるんじゃないかと思います。

母から受け継いだ家に対する強い執着がずっとある

――そもそも真梨さんの作品には家をモチーフにしたものが多いですが、それはなぜですか?

真梨:ど底辺の地域の中でもど底辺の借家で育ったので、家に対する憧れが強いんだと思います。うちの母はシングルマザーとして私と弟を育ててくれたのですが、「いつか一軒家を建てる」という夢があり、借家にお金をかけることはしませんでした。はっきり言って守銭奴でしたね。だから暮らしていたのは、風呂なし水洗トイレなし給湯器なしの古い長屋です。それが嫌で仕方なく、今は休刊となってしまった「美しい部屋」という雑誌を図書館で借りては、「こういう部屋に住みたい」と想像する日々でした。高校卒業後、初めてひとり暮らしすることになったときは、その夢を叶えるために必死で物件探しをしましたね。探し続けるうち、八王子にユニットバスのついた素敵な部屋を見つけ、即決。専門学校のある川崎まで、電車で片道2時間かかる場所でしたが、それでもその部屋で暮らすことのほうが最優先だったんです。母から受け継いだ家に対する強い執着がずっとある。もっというと強迫観念ですよね。だから今でも不動産サイトや事故物件を紹介する「大島てる」を見るのが好きですし、小説を書く際にはモチーフになるのだと思います。

――なるほど。真梨さんご自身は、本作で描いたような一軒家に住みたいと思いますか?

真梨:朝が苦手でゴミ出しができないから、私は集合住宅がいいです(笑)。家族がいたら、一軒家を買うという選択肢もあったかもしれませんが。それでいうと、この小説の登場人物である高齢女性(藤倉さん)の、ひとり暮らしなのに「なぜ広い一軒家を買ったのか?」ということが本作を書く上での肝になった気がします。私はいつもプロットを立てずに書き始めますが、藤倉さんについても「犬を飼っている高齢女性。すぐに死ぬ」くらいしか決めていませんでした。ところが書くうちに、高齢女性が家を買うってどういう意味があるだろう?藤倉さんはどんな人だろう?と想像が広がり、未唯紗アパートメントとのつながりなど、後半の展開を思いつきました。藤倉さんが見事に、過去と現在を結ぶキーパーソンになってくれたんです。

 こうして行き当たりばったりで書いたことが期せずして伏線となり、後半になって効いてくることが時々あります。いわゆるシナプスというやつですね。それが本当に快感です。この気持ちよさや楽しさがあったから、これまで書き続けてこられたのかもしれません。

70歳になってもイヤミスを書き続ける

――コロナ禍で書きたいことや作家としてのスタンスに変化はありましたか?

真梨:コロナの影響というよりは年齢的に、書きたいことが変わってきましたね。来年還暦を迎えるんですが、生きられるのもあと20年か30年だと思うと、死に対してのリアル感が増してきたんです。本作では人がたくさん死にますが、今後、ゲーム感覚で人が死ぬような話は書きづらくなっていくんだろうなと感じています。

――それでは今後はどんな作品が書きたいですか?

真梨:10年後70歳になったとき、何を書いているのでしょうか? イヤミスを書いているのは間違いないけれど、何をテーマにするかはまだ自分にもわかりません。きっと老人の嫌なところを書いているのでしょうね(笑)。歳を取ると人間の俗っぽさが濃縮して表れると思うのでネタは尽きないように思います。母も生前「老人のほうがいやらしいよ」とよく言っていましたし。母はブランド品の知識などまったくない人だったのに、あるとき「PRADAのバッグがほしい」とリクエストされたことがあったんです。おかしいと思ってよくよく聞いてみたら、友人からマウンティングされていたみたい。「うちの子は毎月何十万円も仕送りしてくれるのよ」と。だから自分も「娘にブランドバッグを買ってもらった」と対抗したかったんだと思います。遺品整理してみたら買ってあげたバッグはまったく使われていなくて、ちょっと切なかったですね。

――マウンティングしたりされたり、いくつになっても人間関係は大変ですね。でも大変だからこそ小説のエッセンスになるのでしょうね。真梨さんが描く高齢者イヤミスも楽しみです。ところで、「6月31日」「4月1日」と続いた「日付シリーズ」に、続編はありそうですか?

真梨:そうですね。またぜひ書いてみたいです。日付をいつにしようかな。1月1日とか、8月31日とか、12月25日とか。何かイベントがある特別な日のほうが、ドラマティックで描きやすいのかなと思っているところです。(完)

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