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約10年で深度が増した恐怖の少女エスター…再演のイザベル・ファーマンが語る極意とは?

MOVIE WALKER PRESS

2009年に公開された『エスター』は、いわゆる“どんでん返し映画”と呼ばれるホラー作品で、邦題のタイトルロールでもある9歳の謎めいた少女エスターが巻き起こす惨劇と、彼女にまつわる衝撃の真実が大きな話題となった。それから10年以上が経ち、まさかの前日譚『エスター ファースト・キル』(公開中)が登場。2作にわたってエスターを演じたイザベル・ファーマンへのオンラインインタビューを実施し、人気のホラーアイコンとなった現在の心境や、前作と本作それぞれの撮影で感じた難しさを語ってもらった。

※本記事は『エスター』の結末に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

■「エスターが世界中で愛されているキャラクターなんだと強く認識しました」

前作『エスター』の物語は、夫のジョン(ピーター・サースガード)に妻のケイト(ヴェラ・ファーミガ)、長男のダニエル(ジミー・ベネット)、耳が不自由な長女マックス(アリアーナ・エンジニア)らコールマン一家のもとに、エスターという名前の少女が養子として引き取られて来るところから始まる。両親や兄妹ともすぐに打ち解けたように見えるエスターだったが、どこか浮世離れした雰囲気も纏っていた。そんな彼女は、瀕死で苦しんでいる鳩を石で躊躇なく殺してしまうなど子どもらしからぬ行動も覗かせ、やがてその狂気は家族へと向けられていく…。

結論から言うと、エスターは成長ホルモンの異常による発育不全を患っており、実は33歳の大人の女性だった。しかも、以前はエストニアの精神科病院に収監されており、推定でも7人を殺害している極めて危険な人物だったのだ。『エスター ファースト・キル』では、そんなエスターが精神科病院を脱出してアメリカへ渡って来た経緯や、コールマン家以前に暮らしたある家庭での出来事が語られていく。

インターネットで「ホラー 衝撃」といったワードで検索すれば、必ずと言っていいほど検索上位に上がってくる『エスター』。ある意味で主人公と言えるエスターもまた、数あるホラーアイコンの仲間入りを果たし、世界中で多くのファンを獲得することとなった。

そんな反響の大きさについて「すごくありがたい」と笑うファーマン。一方で、1997年生まれで公開当時はまだ10代前半だった彼女は、成長するまでその人気ぶりを意識することはなかったそうだ。

「子どもの頃は役と私自身を区別して生活することができたので、普通の少女時代を過ごせました。『エスター』公開から数年が経って、ブラジルでのチャリティに参加した際に大勢のファンに囲まれて、エスターが世界中で愛されているキャラクターなんだと強く認識したんです。どこに行ってもみんなに気づいてもらえるし、ホラーアイコンのなかでも珍しい女性キャラクターを演じられることはとても光栄に感じています」。

■「とにかく周囲にいる大人の女性を観察して、細かな動作を演技に取り入れていきました」

前述の通り、前作撮影時のファーマンの年齢は10歳ほど。そして、エスターは外見上では幼い少女なのだが、その内には残酷な暴力性を秘めており、義理の父親に異性としての好意を向けるなど大人の女性であることも表現しなければならない。かなり難しいチャレンジだったと想像されるが、実際はどのように撮影に臨んでいたのだろうか?

「一番難しかったのは、いつ?どのようにして?エスターの大人の側面を見せられるかでした。母親を挑発したり、父親を誘惑したりするシーンがあり、そのような感情を込めないといけない演技には苦労しましたね。役作りではとにかく周囲にいる大人の女性を観察して、手や指先の動かし方、座り方といった細かな動作をよく見て演技に取り入れていきました」。

■「大変だったのは10歳の頃の私らしさを取り戻すこと」

『エスター ファースト・キル』は前作から遡ること数か月前から始まる。つまり、実年齢33歳というエスターのキャラクターはほとんど変わっていないものの、彼女を演じるファーマンは撮影時23歳という少々ややこしい背景がある。再びエスターを演じることを「何年も履いていなかった靴に足を通すような感覚」と表現するファーマンに、本作に出演することになった当時の心境も聞いてみた。

「今回は私自身が大人になった状況で、少女を装うエスターを演じないといけませんでした。そのうえで大変だったのは、10歳の頃の私らしさを取り戻すことです。前作とは違い、大人の女性の仕草はわかっているので、少女としての心情や体の動かし方、表情などを思い出すことを心がけました」。

続けて、再演することへの喜びも振り返る。「今回の脚本を読んだ時に、“新しいチャレンジ”ができると思ってうれしくなりました。単なるホラーではなく、観客を驚かせるストーリーとでも言うのでしょうか。独自のジャンルを作れるぞ!という楽しさもあり、撮影の度にワクワクして新しい発見がありました。また、前作では大人たちが作ってくれたビジョンのなかに私が入っていく感覚でしたが、今回はチームとして一緒にコラボレートできたとも実感しています」。

■「エスターをどうやって応援してもらうか、好きになってもらえるか」

“新しいチャレンジ”とは、本作がエスターの視点で物語が進んでいく構成になっているということだろう。多くの観客はエスターの正体について知っているため、そこを軸にストーリーを展開しても新鮮味は感じられない。そのため、凶暴で残酷な彼女の内面を掘り下げ、前作でも触れられていたピアノや絵画といったアートへの嗜好も見せながら、キャラクター造形をより奥深いものにしていると考えられる。さらに、精神科病院での隔離生活が長かったことからの自由への渇望、少女として振る舞いながらも子ども扱いされることへの抵抗感を持つという矛盾した彼女の鬱屈した心情も映しだされている。その結果、観客はこの恐るべきサイコパスに思わず共感してしまうという、不思議な感覚を味わうことになるのだ。

「役作りのアプローチは前作とさほど変わらないのですが、エスターのことをどれだけ理解できるかは意識しました。ホラーアイコンとしての彼女はみなさんに知られていると思うのですが、今回はそのような悪者をどうやって応援してもらうか、好きになってもらえるかを考えながら、人間的な側面を見せられるように試みていたんです」。

■「ドレスやリボンで着飾って、実は見えないマスクをしている」

ちなみに、本作でメガホンをとったウィリアム・ブレント・ベル監督は、今回のエスターのキャラクターについて『羊たちの沈黙』(91)のハンニバル・レクターからインスピレーションを受けていたそう。最後に、レクター博士を意識したかについて聞いてみた。

「それはちょっとわからないのですが…(笑)。前作のジャウム・コレット=セラ監督からは『イヴの総て』を勧められましたね。一人の女性が憧れの大女優の懐に入り込み、コントロールしていくのですが、その設定がエスターによく似ていたんです。当時は何度も観返していました。また、エスターは特に不気味なマスクを着けているわけではなく、自身の姿をさらしています。一方で、ドレスやリボンで着飾っているので、実は見えないマスクをしていると私は考えています」。

『イヴの総て』(50)は1950年度におけるアカデミー賞で作品賞をはじめ6部門に輝いた作品で、田舎から出てきた俳優志望のヒロインが周囲の人間に巧みに取り入りながら名高い演劇賞を獲得するまでが描かれていく。ホラー映画ではなく、演劇界の裏側を描いた名作と呼ばれるこの作品がベースにあるあたりにも、エスターというキャラクターの一筋縄ではいかないところが感じられる。

前作から雰囲気をガラリと変え、異なるベクトルの衝撃で観客を引き込む『エスター ファースト・キル』。『ハンガー・ゲーム』(12)などへの出演も経て、より深化したイザベル・ファーマンの怪演にも戦慄しながら、“怪物”エスターの誕生の瞬間を目撃してほしい。

取材・文/平尾嘉浩
 
   

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