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『生きる LIVING』が黒澤明から受け継いだ、“希望”のメッセージ「人生は捨てたもんじゃない!」「生き方の糧になる」

MOVIE WALKER PRESS

黒澤明監督の不朽の名作『生きる』(52)を、第二次世界大戦後のイギリス・ロンドンへ舞台を移して再映画化した『生きる LIVING』が3月31日(金)より公開される。先日発表された第95回アカデミー賞では、主演男優賞(ビル・ナイ)、脚色賞(カズオ・イシグロ)の2部門にノミネートされるなど、批評家からも高い評価を得ている本作。本稿では、公開に先駆けて行われたMOVIE WALKER PRESS試写会で鑑賞した観客の方々から寄せられたコメントを紹介しながら、本作に込められた、生きることへの“希望”に満ちたメッセージを紐解いていきたい。

ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが17年ぶりに映画脚本を務めたことでも大きな話題を集めている本作。舞台は1953年、復興途上のロンドン。役所の市民課に務めるミスター・ウィリアムズ(ナイ)は、部下に煙たがられ、家では孤独を感じ、人生を空虚で無意味なものだと感じていた。そんなある日、彼は医者からがんであることを宣告され、余命半年と知る。そして自分の人生を見つめ直し、手遅れになる前に充実した人生を手に入れようとする。

■ウィリアムズの生き様に、“生きる”ことへの勇気がもらえる

今回行われた試写会には、オリジナルの『生きる』が公開された当時にすでに生まれていた70代の人から、20代前半の大学生まで、幅広い年齢層が来場。そのほとんどが、本作の完成度の高さや心に沁みるストーリーに満足したと評価している。

上映後に来場者に記入してもらったアンケートでもっとも多く寄せられていたのは、余命宣告を受けて自らの人生を省みる主人公ウィリアムズの生き様に勇気をもらったという声だ。残りの人生をいかに有意義に過ごしていくか。そして、誰かのためになにかを成し遂げようとする姿勢。“生きる”ことが“希望”をもたらす。それこそが、本作の最大のテーマといってもいいだろう。

「どの時点であっても“生きる”ことを貫くには遅くない」(女性・58歳)
「日常は不意に崩れるものであることを改めて実感し、いまを大切に生きたいと感じました」(男性・28歳)
「なにか人のため、役に立つことをしたいと思った」(女性・37歳)
「人生は捨てたもんじゃない」(男性・54歳)
「日々の生き方の糧になる」(男性・34歳)

また、人生には限りがあるということを痛感し、「仕事を頑張りたいと思った」や「大切な人に会いたくなった」といった、自身のいま置かれている境遇と照らし合わせながら共感する声も目立った。
「時間は有限であることを改めてみんなに考えてほしいと思いました」(女性・42歳)
「家族といつしかちゃんと向き合って話をしなくなった気がする」(女性・26歳)
「現在就活中。私のように人生の岐路に立っている人にこの映画を勧めたい」(男性・21歳)

ほかにも「感動した」や「優しい気持ちになった」などの声も多く、「ここまで細かく感情の機微を描こうとしている作品を初めて観た」(男性・38歳) と、深く心に沁みる緻密な人物描写に驚嘆するコメントも。

■円熟味あふれるビル・ナイの演技に、賞賛の声が多数!

オリジナル版では黒澤映画ではおなじみの名優、志村喬が演じた主人公。本作で演じているのは英国映画界を代表するベテラン俳優ビル・ナイだ。『ラブ・アクチュアリー』(03)では落ちぶれたロックスターを演じ、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズでは幽霊船の船長デイヴィ・ジョーンズ役を演じるなど、どんな役柄でも自分のものにしてしまう稀代の演技派俳優として多くの映画ファンから愛されている。

実に40年以上映画俳優として一線を走り続けてきたナイは、本作の演技で初めてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。本作を語るうえで欠かすことのできないナイの静謐で味わい深い演技への賞賛の声も、多数寄せられている。

「ブランコに揺られているビル・ナイの満足そうな顔。こういう静かに印象付けられる演技がすごい」(女性・54歳)
「ビル・ナイの哀愁のある演技や美しい歌声に感動した」(男性・21歳)
「静かな演技が印象的だった」(男性・51歳)
「人生を楽しみたい、けれどどう楽しんでいいのかわからない。素直に口に出せる人間性に惹かれる」(女性・58歳)

また一方で、オリジナル版を観たことがある観客は、志村の鬼気迫る演技と比較しながらそれぞれの魅力を讃えていた。
「志村喬の演技と違って、抑制した演技が印象的だった」(男性・41歳)
「オリジナルの志村喬とは違う憂いを感じたビル・ナイの佇まいがすばらしい」(女性・58歳)

■1950年代ロンドンを精巧に再現!実力派スタッフが作りだす、上質な映画体験

本作のもう一つの見どころは、1950年代のロンドンという舞台設定を活かした美術や衣装デザイン、ひいては作品全体のトーンの作り込みだ。古典映画を思わせる画面のアスペクト比に、オープニングから見られる当時のカラー映画を彷彿とさせるようなタイトル映像。それには「冒頭の古典映画風の入りから、物語に引き込まれた」(男性・21歳) という声もあった。

美術を手掛けたのは、『フィッシュ・タンク』(09)や『パーティで女の子に話しかけるには』(17)のヘレン・スコット。衣装デザインを手掛けたのはこれまで15度アカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされ、3度の受賞を果たしている大御所サンディ・パウエル。英国を代表する実力派スタッフが作りだしたディテールからも目が離せない。

「衣装、セット、小物、照明が美しくて、どのシーンを切り取っても絵になると感じた」(女性・37歳)
「英国のレトロなファッションや建物が素敵」(女性・42歳)
「色使いや衣装が素敵」(女性・22歳)
「街並みや人々の服装など、タイムスリップしたかのようだった」(女性・57歳)

ほかにも「50年代のイギリスとウィリアムズの心を音楽が表現していた」(女性・47歳) のように音楽を高く評価する声、また「オリジナルをうまく50年代のイギリスに移し替えている」(女性・61歳) といったカズオ・イシグロの脚色について評価する声も。上質な要素が互いに作用しあい、テーマを表現することへと向かっていく本作。作品としての完成度の高さはお墨付きだ。

■誰しもの人生と重なりあう、共感必至のテーマ性

オリジナルの『生きる』を幼い頃に観たというイシグロは、そこに込められたメッセージに衝撃を受け、影響されながら生きてきたと語っている。感情を表に出さない国民性という日本とイギリスの共通点のみならず、戦後の復興と再生のなかを生きた人々の人生観は、現代にも通じているのだろう。

そうした時代も国境も問わない普遍的なテーマは、オリジナルから本作へと丁寧に受け継がれている。それだけに試写会の来場者の多くが、自身の生き方や体験と重ねずにはいられなかったようだ。

「自分も麻痺してただ日常を送っている気がしてハッとさせられました」(女性・26歳)
「自分の人生をふと振り返った時に、理想と違うもどかしさや人生に意味を見つける難しさを感じる」(男性・21歳)
「“ゾンビ”と呼ばれるウィリアムズ。自分の心境に近いものがあった」(男性・41歳)
「自分はなにをしているのか、なにをしたいのか。なにかしなければ、と思うことが度々ある」(女性・47歳)

また、本作を観て一歩踏みだそうと、自らの生き方や働き方、そして周囲の人との関わり方を変えようと心に決める前向きなコメントも見受けられた。
「私もまだこれだけ時間があると思ったら、楽しく好きなことをして最後を迎えたい」(女性・54歳)
「病気の母をいま以上に大切にし、少しでも楽しい思い出を残したいと思いました」(女性・45歳)

■いつまでも残る余韻と、胸を打つ“希望”のメッセージ

来場者のなかで黒澤監督の『生きる』をすでに観ていた人は、全体の4分の1ほどだった。オリジナルを鑑賞済みの観客からは、「黒澤明監督の名作をイギリスナイズしつつ現代に蘇らせてくださりありがとうございました」(男性・28歳) と、リスペクトにあふれた出来栄えに感謝する声も。

一方で、「観て本当に良かった。オリジナルを観ていないので、帰ったらすぐに観ようと思います」(女性・25歳) と、本作をきっかけに黒澤映画に興味を持つ声も複数見受けられた。
「生き方について、自分はどう生きたいか考えさせられました」(女性・34歳)
「各年代で捉え方が違うかもしれないけれど、人生におけるテーマだと思う」(女性・47歳)
「日常のなかに埋もれてしまいがちな大切なことを思い起こされる素敵な映画だと思いました」(女性・55歳)

それぞれの立場や世代、経験によってまるで見え方が異なるのが“生きる”ということ。黒澤監督のオリジナルが70年経ったいまでも世代を超えて観続けられる作品になっている理由の一つに、観るたびにその見え方が変化していくということもあるのだろう。

そのテーマをしっかりと受け継いだ本作もまた、今後何十年にもわたって多くの人の心に残る作品となるはずだ。映画館でいまこの物語と出会える喜びを味わいながら、じっくりとその余韻に浸ってみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬
 
   

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