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80年の人生のなかで…「最も品格と寛容と威厳の備わった人物」との出会い

幻冬舎ゴールドライフオンライン

心に傷を持つ少女・ちよは、修道院で暮らすことに。教室に漂う牧草の香り、修道女たちのせせらぎのようなコーラス、響き渡る鐘の音…神様に見守られながら過ごす日々は、寂しくも温かく、ちよの心をほぐしていく。画家・小野千世の幻の絵日記を書籍化。※本記事は、おのちよ氏の書籍『花と木沓』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

花と木沓

七月八日

八時から十一時迄は勉強の時間。

三人の中学生がうさぎ先生のオルガンで聖歌の練習をしている傍らで、校二年の私と藤田さんは英語。それにしても、外は北海道の夏! 赤クローバーです、ネコジャラシです、スズメノテッポウです、あかのまんまとひまわりとトンモロコシにたんぽぽのフワフワです。

牧草の香りが勉強室に充滿して、そこに聖歌が、そよ風のように漂うのですから、何だかもう、頭の中が全部青空になって、心は蜜蜂になって窓の外をさまよいます。

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ずっとむこうに聖衣の袖をまくり上げたエフレム様が、「コウ!」「ヤア!」と叫びながら 木の枝ふりふり牛を追っているのが見えます。

それが、虫の声みたいに、ちいちいと 聞えます。牛は、遠くから見ても、やっぱり重い荷物のように、ノロノロゴロゴロしています。

そのうちにエフレム様は、頑固な牛のお尻に手をあててよいしょっとばかりに押し始めました。

すると、それまで岩のように土に生えていた牛が急にとことこと、前にかけ出したものですからたまりません。

私は「あ」と声を漏らしてしまいました。“修道女様おころびになるの図”なんて、初めての見物ですもの。はるかな牧草の中に腹這いになったエフレム様は、首を上げてそのままのんびり牛の行方を眺めやっておいでです。

澄み渡った空には、ちぎれ眞綿が一つ、ぽっかりと浮んで、ゆっくり、ゆっくり、西え流れて行きました。

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