スキージャンプは、傾斜角約35度のアプローチ斜面を滑り降り、時速約80〜90㎞のスピードで踏切台を飛び出して、着地点までの飛距離点や飛型点をV字型飛行で競う競技です。
さて、踏切地点と着地点との高度差は約40〜60mあるのにもかかわらず、なぜジャンパーは着地の際にケガをしないのでしょうか?
ジャンパーが着地の際に大きな衝撃を受けなくてすむのは、斜面(ランディングバーン)の形状に秘密があります。この斜面は緩やかなS字をしていて、着地付近の傾斜角度は約40度です。
このような形状になっているのは、着地時にジャンパーが斜面から受ける衝撃が、ジャンパーの持つ運動量(速度×ジャンパーの質量)のうち、斜面に垂直な方向の成分で決まるからです。
着地点で傾斜がついていれば、ジャンパーは斜面に対して浅い角度で着地できるので、斜面に対する速度の垂直な成分を小さくすることができます。その結果、着地時にジャンパーに掛かる衝撃が少なくてすむのです。
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スキーやスノーボードで、急斜面を滑っているときに転んでも、斜面からあまり大きな衝撃を受けないのも同じ理由です。
では、着地の際にジャンパーが受ける衝撃を簡単に計算してみましょう。
ジャンパーが時速80㎞で水平に飛び出した場合、空気の影響を考慮しなければ、着地時の速さは時速約140㎞です。したがって、着地付近の傾斜角度を40度とすれば1.5~3mの高さから飛び降りた場合とほぼ同じ衝撃を受けることがわかります。
実測される着地の際の速度は時速約100㎞といいますから、先程の計算した速度よりも幾分小さな値です。これは、ジャンパーが飛行中に空気抵抗や揚力の影響を受けているためです。そのため、ジャンパーが着地時に受ける衝撃は、先程計算した値よりもずっと小さくなるのです。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』
著者:長澤光晴 日本文芸社刊