―[経済オンチの治し方]―
私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。
◆日銀が国債を、買い続けている意味ってなに?
’13年4月に「量的・質的金融緩和」を開始して大量に国債を買い続けた結果、日銀が保有する割合は国債発行残高の54%に達しています(’22年12月末時点)。
このように、日銀が国債を買い続けるのは、すべての満期の国債金利を大幅に引き下げることで銀行の貸出金利や社債金利の低下を促し、消費や設備投資を増大させ、2%のインフレ目標を安定的に達成するためです。
◆通常、日銀の金融緩和政策とはコールレートを引き下げることだが…
通常、日銀の金融緩和政策とは、コールレート(銀行間で短期資金を融通するコール市場の貸出金利)を引き下げることです。コールレートが下がると短期貸出金利の低下をもたらすため、企業の在庫投資や家計のカードローンを利用した消費を増やします。
しかし、コールレートをほぼゼロにまで引き下げても、景気はよくならず、’98年7月以降は、一時期を除いてデフレになってしまいました。
そこで、’13年3月末に発足した新日銀執行部は、満期が1年以上の長期国債をそれまでよりも大量に購入することにしました。さらに、上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の買い入れも拡大しました。
国債購入が「量的金融緩和」、ETFなどの購入が「質的金融緩和」です。ここでは、量的金融緩和の部分に注目しましょう。
◆国債金利が大きく低下すると、貸出金利も低下する
’13年度の長期国債の購入額は63兆円で、’12年度の約3倍に達しました。また、あらゆる満期の国債金利を大きく引き下げるため、買い入れ対象を40年債を含む全ゾーンの国債としました。
国債金利とはやや正確性を欠きますが、固定された国債利息を国債の市場価格で割った値と定義されます。日銀が大量に国債を買えば、国債価格が大きく上昇するので国債金利は大きく低下します。
国債金利が大きく低下すると、銀行は資金を国債で運用するよりも企業や家計に貸し出したほうが有利になるため貸し出しが増え、貸出金利は低下します。その貸出金利は貸し出す期間と同じ満期の国債金利との比較で決まるためです。
◆国債を買い続けているのは、緊縮財政政策のため
企業の設備投資や家計の住宅投資、自動車のような耐久消費財の購入は、長期に使用するモノの購入ですから、長期貸出金利が低下すれば、増加します。これらの増加はすべて需要の増加ですから、需要不足のために起きている経済停滞やデフレの解消に繋がり、物価は上昇します。
ただし、安倍政権時代のように、消費増税や基礎的財政収支(税収・税外収入と、国債費<国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用>を除く歳出との収支)の赤字削減を急ぐなどの緊縮財政政策を採用すると、金融緩和の需要増大効果を削いでしまいます。
日銀が「量的・質的金融緩和」を開始してから、ほぼ10年経っても、2%のインフレ目標が達成できずに、国債を買い続けているのは、緊縮財政政策のためなのです。
◆岩田の“異次元”処方せん
国債金利を下げて、家や車の購入にかかる金利を引き下げている
―[経済オンチの治し方]―
【岩田規久男・元日銀副総裁】
東京大学大学院経済研究科博士課程退学。上智大学名誉教授、オーストラリア国立大学客員研究員などを経て、’13~’18年まで日本銀行副総裁として日本のデフレ脱却に取り組んだ経済学の第一人者。経済の入門書や『「日本型格差社会」からの脱却』(光文社)、『自由な社会をつくる経済学』(読書人)など著書多数