
2022年に刊行された漫画作品から、人に勧めたい作品を選ぶ「マンガ大賞2022」が3月27日に発表となり、とよ田みのる『これ描いて死ね』が大賞に選ばれた。伊豆王島に暮らす漫画が好きな女子高生たちが、漫画を描き始める内容に、表現をする大変さと楽しさが感じられる作品。2位に入った馬上鷹将、末永裕樹『あかね噺』とわずか2ポイント差という接戦を制して、栄えある大賞に輝いた。
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「座りながらゲームをしていたら、受賞したという連絡があってイスから転げ落ちました」。『これ描いて死ね』が「マンガ大賞2023」となったとよ田みのるは、こう話して幾つもの人気作品を制して受賞を果たした時の驚きを振り返った。2位との2ポイントという差は、「マンガ大賞2017」で67ポイントを集め大賞となった『響 ~小説家になる方法~』と、64ポイントで2位になった『金の国 水の国』の3ポイント差を上回る接戦。とよ田みのる自身も、「本当に素晴らしい作品ばかりでしたので、通る訳がない」と思っていた中での受賞となっただけに、本当に嬉しそうだった。
『これ描いて死ね』の主人公、安海相は伊豆王島に住む女子高生。☆野0という漫画家が描いた作品が大好きで、島にある貸本屋で借りては読んで返してまた借りて読むくらいのめりこんでいた。この段階では、あくまでも読者としてマンガへの熱い思いを持っていただけの相だったが、☆野0による新刊が同人誌即売会のコミティアで頒布されると知って、遠く伊豆王島から高速船で東京へとかけつける。
そして、コミティアの会場に行ってそこで大勢の漫画家たちに出会って相は気がついた。漫画って自分でも描けるんだ。漫画好きなら当たり前のことでも、離島で漫画を借りて読んでいただけの女子高生はそこまで知らなかった。相は思自分でもマンガを描いてみたいと思い立ち、友人を巻き込みマンガに興味を持っていた美術部員を巻き込み学校の先生まで巻き込んで、自分たちで漫画を作ってコミティアで売るところまで突き進んでいく。
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「明るくて楽しいものを描きたかったのですが、人のためにだけ描いていると中身ががらんどうになってしまいます。だから、自分が好きなもの、大切にしているものを真ん中に置こうとしたら、漫画になりました」と、『これ描いて死ね』で漫画の創作に挑む女子高生たちを描いた理由を話したとよ田みのる。自身が経験したことや、その過程で味わった苦しみなども交えつつ、仲間たちと漫画作りに突き進んでいく楽しさを教えてくれる作品となっている。
同時に、漫画において大切なことも。絵が綺麗なことに越したことはないが、その絵によって紡がれる物語が人を突き動かすようなものでなければ、ひとりよがりになってしまう。思いを物語にする原作者がいて、その思いを汲み取って最良の絵によって表現する絵描きがいて、そうやってできあがったマンガのどこが良くてどこが悪いかを感じ取る読者がいる。さらにライバルまでいることで、マンガはより高くより遠くへと進んでいけるのだということが伝わってくる作品になっている。
漫画を描く漫画家を描いた漫画には、藤子二雄Aと藤子・F・不二雄がコンビを組んでいた「藤子不二雄」の誕生から成長を振り返るような藤子不二雄Aによる『まんが道』がある。『これ描いて死ね』にはその『まんが道』への敬意がところどころに感じられる作品となっている。受賞式でとよ田みのるは、「漫画と言えば藤子不二雄先生が好きで、僕の中では漫画=藤子不二雄先生なので、名前をお借りしました」と話して、大先輩への思いを改めて表明した。
『これ描いて死ね』では、主人公たちが同人誌即売会のコミティアに出店を目指す描写が登場する。とよ田みのる自身もコミティアへの参加経験がある。この時の感想を「こんなにも純粋に創作そのものに向かい合っている、売れたいという目的で描いているのではなく、表現したいから描いている風に見えて、カッコ良いなあと思ってコミティアがすきになりました」と振り返った。そして、今もコミティアに出店し続けている同好の士たちに「すきに描きなよと言いたいですね」と、自由に創作する大切さを訴えていた。
「マンガ大賞2023」の結果
大賞『これ描いて死ね』とよ田みのる102ポイント
2位『あかね噺』馬上鷹将、末永裕樹 100ポイント
3位『女の園の星』和山やま 65ポイント
3位『正反対な君と僕』阿賀沢紅茶 65ポイント
5位『天幕のジャードゥーガル』トマトスープ 59ポイント
5位『日本三國』松木いっか 59ポイント
7位『さよなら絵梨』藤本タツキ 44ポイント
8位『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』地主 34ポイント
9位『劇光仮面』山口貴由 32ポイント
10位『タコピーの原罪』タイザン5 29ポイント
11位『光が死んだ夏』モクモクれん 22ポイント