
配信サービスが普及したことで『東京ラブストーリー』(フジテレビ系/以下『東ラブ』)や『ロングバケーション』(フジテレビ系/以下『ロンバケ』)といった1990年代のドラマが見返される機会が増えているが、やたらと元気で行動力のあるヒロインたちが違和感も含めて面白がられている。
■絶大な共感を呼んだ赤名リカと葉山南
ファッション雑誌のような世界を描いた『抱きしめたい!』(フジテレビ系)などのトレンディドラマは、1986年に施行された男女雇用機会均等法と、好景気に後押しされる形で社会進出した女性たちをエンパワーメントするおしゃれなドラマとして支持され、自由で新しい女性の生き方を描こうとした。
その臨界点と言えるのが、1991年に放送された『東ラブ』のヒロイン・赤名リカ(鈴木保奈美)だった。仕事にも恋愛にもエネルギッシュなリカの生き様は、放送当時、F1層(20歳~34歳の女性)からの絶大な共感を呼び、新しい時代の生き方として賞賛された。しかし1991年以降、バブル崩壊が起こると、好景気によって後押しされた女性の社会進出は停滞していく。この平成不況の停滞感をいち早く描いたのが、1996年に放送された『ロンバケ』だった。
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本作は婚約者に逃げられ、モデルの仕事も落ち目の31歳・葉山南(山口智子)が24歳のピアニスト・瀬名秀俊(木村拓哉)と同居生活を送る恋愛ドラマ。何をやってもうまくいかない二人の時間を「神様がくれた長い休暇」に例えることで平成不況の空気を先取りした本作だったが、葉山南はトレンディドラマの時代のバイタリティ溢れる明るいヒロインで、このズレこそが『ロンバケ』の面白さだった。
おそらく当時はまだ、この不況は一時的なもので、いずれ1980年代のような好景気に戻るという楽観的観測が日本人の中にあったのだろう。赤名リカや葉山南の自分勝手で自意識過剰な振る舞いが、現在の視点で観るとあまりにも能天気で、痛々しいものに映るのは、彼女たちの勢いを後押しした余裕が今の私たちから失われてしまったからだ。そう考えるとあの能天気さが少しだけ羨ましくなる。
■『ショムニ』が切り開いたスーパーヒロイン路線
一方、働く女性の強さと男社会である会社の困難を描いたお仕事ドラマが1998年の『ショムニ』(フジテレビ系)だった。本作は、女子社員の墓場と呼ばれる“ショムニ”こと総務部庶務二課で働く坪井千夏(江角マキコ)を中心とした6人のOLグループを主人公にしたコメディだ。会社内の男女格差の描き方が露骨で、だからこそ男たちを跳ね除ける千夏たちの活躍は爽快だった。しかしその姿は逆説的に、社会で女が男と対等に渡り合おうとすると、人間離れしたスキルと内面の強さが必要だという限界を描いていたようにも感じる。
『ショムニ』が切り開いたスーパーヒロイン路線は、『ハケンの品格』や『家売るオンナ』といった日本テレビ系のお仕事ドラマに引き継がれていくのだが、時代が進めば進むほど、ヒロインが感情を表に出さない機械的な喋り方をするロボットのような存在に変わっていく。そこには社会で男のように働くためには、心を閉ざして機械のように振る舞わなければ生きられないという働く女性の痛みが現れていたように感じる。
■2010年代後半以降のヒロインが開放される物語