最近は、「Nintendo Switch Online」や「PlayStation Plus」といったサービスのおかげで、懐かしいゲームを遊べる環境も増えましたが、一方で買い切り型の「バーチャルコンソール」や「ゲームアーカイブス」などの動きは乏しくなり、一進一退に近い状況が続いています。
「あのゲームを今も遊びたい!」と願う気持ちを持つユーザーが絶えることはありませんが、クラシックなレトロゲームの復活はどうしても限られているのが現状です。果たしてどんな事情が、ゲームの復活を阻んでいるのでしょうか。
■レトロゲームの需要は確かにある
「そもそも、レトロゲームの需要がそんなに大きくないのでは?」と考える方がいるかもしれません。確かに、そこに驚くほどの金脈が埋まっていれば、復刻への動きはもっと活発になっているはず。現状を踏まえると、そこまでの注目度はないのかもしれません。
ですが、会社として利益が見込めないほどかといえば、それは全く異なります。例えば、ハムスターによる「アーケードアーカイブス」からは、当時のゲームタイトルがいくつも現代に蘇っています。こうした展開を見せる会社は少なからずあり、いずれも懐かしいタイトルの復刻に意欲的です。
また、セガが発売した復刻版レトロゲーム機「メガドライブミニ」「メガドライブミニ2」は、いずれも完売状態。中古市場では定価を上回るプレミア価格で取引されるほど、高い人気を集めています。
懐かしいゲームの復活や、復刻ゲーム機への収録で問題になる壁のひとつは、許諾を得られるかどうか。当然の話になりますが、権利者から許可を得て適切な契約を結ばない限り、そのゲームを蘇らすことはできません。
しかも古いゲームの場合、その権利を持っているのは誰なのか、もしくはどの会社なのか、そこすらも分からない場合があります。権利が人から人へ、会社から会社に移るケースもあり、追跡が困難を極めることも多々あります。
そんな、レトロゲームを復活させる苦労や裏話が、先日行われた特別番組「発表! 全メガドライブミニ2 メガ投票」の中でも語られました。意外な裏話なども交えつつ、「メガドライブミニ2」を世に送り出すまでの背景が語られており、なかなか興味深いひとときでした。
■「メガドライブミニ2」特番で覗かせた、レトロゲーム復刻の一端
「発表! 全メガドライブミニ2 メガ投票」の主な内容は、アンケートの結果やランキングの発表でしたが、折々で「メガドライブミニ2」に関わる裏話などもポロリ。懐かしいゲームを多数収録しているゲーム機なので、そうしたタイトルを復刻する上での具体例なども明かされます。
例えば、本機に収録されたメガドライブソフト『ふしぎの海のナディア』は、当時ナムコが発売したゲーム。今はバンダイナムコエンターテインメント(以下、バンダイナムコ)に社名が変わっていますが、少なくとも作品自体の権利元ははっきりしています。
しかし、このゲームは同名のアニメが原作なので、バンダイナムコだけに許可されればいいわけではありません。原作の版権を持つNHKエンタープライズや、主題歌の著作権を有する東宝ミュージックなど、許諾を得るにも複数の会社に関わる形に。そして、このうちの一社でも許可が得られなければ、メガドライブソフト『ふしぎの海のナディア』の復活は無理だったのです。
こうした事情を汲み、番組に登壇した岐部昌幸氏から「ナディア(の許可をもらうの)は大変だったんじゃないですか?」といった質問が飛び出します。
その疑問について、「メガドライブミニ」シリーズに関わった中心人物の奥成洋輔氏は、「訊ねるところは多かったんですが、ひとつひとつからは「喜んで」というお話をいただいた」と、時間はかかりつつも快諾をいただいた一例として語りました。
また本作は、主題歌に合わせて歌詞も表示されるため、「作詞と作曲、両方のライセンスがいる」と解説。完全に再現するには歌詞の表示も欠かせませんが、こうした部分ごとに許可をもらう先が増えるため、レトロゲームの復活が想像以上に大変だと分かります。
■レトロゲームの購買層は「深く狭い」
商業的に購買層が限られている点も、レトロゲーム復活の難しい点のひとつ。当時のユーザーに強く訴えかける商品なので、裏を返すとその層以外にアピールしにくい現実もあります。
例えば、メガドライブに触れていない今の10代、20代の人たちに、「メガドライブミニ」が広く刺さるかと言えば、難しいところでしょう。「メガドライブミニ2」購入者を対象としたアンケートを実施したところ、1,446票の回答が集まりました。その回答者の割合を見ると、10代の割合は0.6%(9人)。20代でも3.7%(54人)に留まっています。
もちろん直撃世代は強く、最も多かった「45~49歳」だけで39.5%(576人)。次いで、「50~54歳」の24.8%(362人)、「40~44歳」の17.1%(249人)という結果になりました。「メガドライブミニ2」が主に狙ったのがこの層なので、マーケティングとしては間違いなく成功していますが、「狭く深く」という売り方なのは否めません。
また購入者の男女比もかなり極端で、男性の96.3%に対し、女性は3%(その他 0.7%)。一般的には、カジュアル層も取り入れ、男女双方に受け入れられる方がヒットしやすいため、真逆を行くレトロゲームの道のりが厳しいことも分かります。
■今だと「メガドライブミニ2」は作れない!?
広く受け入れられるのは難しいものの、狙ったユーザーに深く刺さりやすいのは、レトロゲームが持つ大きな利点でしょう。しかし復活させる形によっては、人気が過多でもそれ以上販売できない=更なるヒットが見込めないケースもあります。
例えば「メガドライブミニ2」は、プレミア価格になるほどの人気ゲーム機ですが、再販の予定はなく、奥成氏の反応を見る限りでは今後の再生産も難しそうです。おそらく、許諾を受けた際の契約内容の上での事情もあるかと思いますが、さらに状況的な問題も立ちはだかります。
ここ数年、世界的に半導体が不足しており、多くの分野でその高騰と品不足に悩まされています。「メガドライブミニ2」の価格は10,978円(税込)で、全61本のゲームを収録。そのコストパフォーマンスはかなり高く、「お得だ」「安いくらい」といった評価も寄せられたほどです。
奥成氏は「メガドライブミニ2」の価格についても触れ、「今、これからメガドライブミニ2を作りますとなったら、この価格では無理です」と口火を切り、「メガドライブミニ2」が半導体の高騰や円安の影響もあまり受けなかったと説明。それがどれだけ幸運だったかと言えば、「奇跡的に、絶妙なタイミングでギリギリセーフ」と奥成氏が表現したほどです。
ソフト単体をダウンロード販売するケースでは、こうした物理的な生産面で悩まされることはありません。しかしレトロゲームの場合は、遊べるゲームをまとめ、相応の金額で販売するといった形式も視野に入ります。そこには、コレクション的な価値も加わる実機での展開も含まれ、当然生産面の課題とも向き合わなければなりません。
■レトロゲームを求める気持ちは止まらない!
こうした様々な事情が、レトロゲームや復刻ゲーム機に潜んでいるのは事実です。しかし根強い人気に支えられ、明るい話題も尽きません。
こちらも番組内で公開されたアンケート結果ですが、「メガドライブミニ2のような、セガの過去のゲーム機の復刻商品が発売された場合、購入したいと思いますか?」といった質問に対し、「必ず購入する」が58%(845人)、「たぶん購入する」が36.9%(538人)など、非常に高い意欲を示す回答結果が飛び出しました。
購入に前向きな反応を合算すると94.9%もの回答者が、新たな復刻ゲームに高い関心を寄せています。これは、今後の展開に影響を及ぼしかねないほど、非常に高い数字と言えます。
なお、「最も購入したいセガの過去のゲーム機の復刻商品」についての回答は、第1位が「セガサターン」、第2位が「ドリームキャスト」、第3位に「メガドラミニの第3弾」が食い込みました。食い込んだ候補のいずれも、一定数からの力強い支持を感じさせます。
高い関心が明らかとなったこのアンケート結果に対し、奥成氏は「寄せられたご意見は、しっかりと活用させていただきます」と発言。ここから新たなプロジェクトの幕開けに繋がることを、ひとりのゲーマーとして期待するばかりです。
最新のゲームであっても、いずれは懐かしい過去の作品になります。しかし、そのゲームで体験できる面白さや感動が変わるわけではありません。全く新しいゲームを求めつつ、思い出深いゲームとの再会も望める。その両方が満たされる世界の訪れを願ってやみません。