
「蟹江高校が来年の三月で無くなるのを知っとるか? ラグビー部も既に無いとのことだ」母校の閉校をきっかけに再会を果たした、昔の仲間たち。ラグビーに青春をかけたあの頃が鮮やかによみがえる。第二の青春を謳歌する中年男たちを描いた、真実の物語。※本記事は、相木英人氏の小説『ノーサイドの笛はまだ聞こえない 約束のスクラム』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
第四章・準備期間
二〇〇七年秋
設立する社会人クラブはプロではない。また企業の運営による社会人チームでもない。しかし、愛知県ラグビーフットボール協会に所属する正式な社会人クラブチームだ。皆真剣だった。皆本気でもう一度、ラグビーをしようと思っていた。俺たち不惑の誓いだった。
九月下旬の休日
俺はいつものように居間のソファーで寝ていた(ここがどの家庭でもおやじの居場所だ)。
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掃除機の音が近づいてきた。
「お父さん。明日は大丈夫でしょうね」
妻の弥生だ。
「……そうだった。なつきの合唱コンクール決勝の日だった」
娘たちも年頃になり、休日はそれぞれ遊びに行く。家族でも女同士で出かけるため、休日に父親の俺に声がかかるのは特別なときだけだ。
長女・なつきの高校の合唱部は、名古屋市大会と愛知県大会を勝ち進み、東海北陸ブロックでの決勝戦を明日に控えていた。普通は県大会で勝てば、全国大会に出場出来るのが一般的だが、この合唱コンクールはさらに各々の地域ブロック大会で勝たなければ、決勝ホールの舞台には立てないのだ。