
昨年11月にリリースした2ndアルバム『四季』を携えて全国を巡ってきたリュックと添い寝ごはんのツアー『2nd album release tour “四季”』。そのファイナルが3月1日、満員の渋谷クラブクアトロで開催された。今回のツアーでは長く禁止されていた観客の声出しも解禁となり、これまでのワンマンライブとはまったく違う雰囲気。何度も彼らのライブを観てきた筆者にとっても「こんな盛り上がりをするのか」「こんな空気が生まれるのか」と驚かされてばかりの一夜となった。バンドが育んできた空気感やムードと観客の熱が入り混じった、とても温かで愛に満ちた空間と時間。これぞリュックと添い寝ごはんだ、と胸を張って言えるような、すばらしいライブだった。
(関連:リュクソ、『四季』ツアーファイナル)
松本ユウ(Vo/Gt)の弾き語りから「渚とサンダルと」でライブを始めると、そこから一気にパフォーマンスのギアが上がっていく。「青春日記」に「サマーブルーム」、そして「PLAY」とアッパーな楽曲を畳み掛ける序盤。「ようこそ、リュックと添い寝ごはんです! 本当にパンパンですね。幸せです」。心から嬉しそうな声で松本が挨拶すると、フロアから歓声が返ってくる。そして観客の手拍子が盛り立てるなか「くだらないまま」を披露すると、「この曲を一緒に歌いましょう!」と「everyday」に入っていく。曲が始まる前に練習した甲斐もあってか、曲のなかでは見事なシンガロングが巻き起こる。跳ねるリズムと軽妙なギターのカッティングが場の空気をさらに気持ちよく盛り上げると、そのまま「ホリデイ」、さらに「東京少女」へ。ソリッドなロックチューンでも、フォーキーなポップチューンでも、バンドは以前よりも軽々と楽曲を乗りこなし、自在に操っているように見える。「あたらしい朝」でも、松本がちょっと歌い回しや譜割りを変えたりするのに、メンバーがごく自然に追従していく。ひとつの生き物のように転がっていくバンドサウンドがとても心地よい。
それが発揮されるのが『四季』からの楽曲たちだ。ツアーを振り返ったり(ベースの堂免英敬は各地でサウナに行っていたらしい)、緑色で揃えた衣装について話したり(なのにドラムの宮澤あかりはなぜか青のストライプのシャツを買ってしまったらしい)、というMCに続いて披露されたのは「アップルパイ」。先日あったというぬん(Gt)の兄の結婚式でも流れたというハートウォーミングなこの曲では、松本の弾くギターと歌にほかの3人の鳴らす音が優しく寄り添う。ぬんのメロディアスなギターソロもすばらしい。そして同じような優しさをたたえた「Familia」へ。家族の愛と幸せを歌ったこの曲が、なんだかリュックと添い寝ごはんというバンドを言い表しているような感じがする。
その後、バンドは「わたし」の演奏を始めたのだが、その途中で突然、松本が演奏を止める。じつはフロアで体調を崩した観客がいて、彼はそれを見つけたのだ。「大丈夫? みなさんも体調には気をつけて」と声をかける松本。ライブをやりながらもちゃんと一人ひとりに目を配っているのもさすがだし、勇気をもって演奏を止めることができるというのも彼らしい優しさだ。そしてそれ以上に感動したのは、いったん止まった曲をメンバー全員が阿吽の呼吸で自然と再開したこと。そんな自然な流れが、今の彼らの状態をよく物語っていたと思う。
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いつの間にか春めいてきた季節に触れ「当たり前にどんどん進んでいってるなって感じます。当たり前というのは一番尊いものだと僕は思っていて。突然、当たり前だったものが当たり前じゃなくなってしまうこともあるから、当たり前を、今を大切にしてほしい」。そんなメッセージを観客に届けると、「だからこそ僕は今を歌い続けたいし、今という儚くて尊いものを大切にしたい」と「みんなのうた」を演奏し始める。『四季』のなかでもひとつの白眉といえる名曲を、じっくりと歌う松本。一音一音噛み締めるように鳴らされる音が、今目の前にある「当たり前」に光を当てるように聞こえてくる。そしてここでもすばらしいのがぬんのギターソロだ。情感豊かなフレーズが楽曲に込められたエモーションを代弁している。
と、歌い終えて「本当に幸せです」と感慨に耽っている松本に堂免が「忘れてない?」と叫ぶ。「今日、誕生日なんです……」。そう、じつはこの日は彼の21歳の誕生日。「なんで自分で言わなきゃいけないんだよ!」と憤慨する堂免だが、もちろん観客もそれは知っていて、フロアからは「おめでとう!」の声が飛ぶ。あまりにも誰にも祝われないために自分からスタッフに言って回っていたという寂しいエピソードを披露する堂免を見て松本が突如笑い出した。「なんでサングラスかけてんだよって思って……」と今さら彼がかけていたサングラスがツボにハマった様子だ。こういう光景を見ているだけでこっちがにやけてしまう。仲がいいというか、いい雰囲気でバンドをやれているんだな、とこういうなんでもないシーンに思うのだ。
ライブはここからラストスパートに突入していく。これまでバンドを支え続けてきた「ノーマル」が始まった瞬間に大きな手拍子が巻き起こり、その手拍子は松本の「一緒に!」という言葉をきっかけにシンガロングに変わっていく。最高の一体感。コロナ禍で成長を続けてきたリュクソの道のりが、決して間違っていなかったことを証明するような光景だった。そこから「手と手」につなげると、フロアから鳴る手拍子に「いいね」と松本も笑顔を浮かべる。そしてその名の通りまっしぐらに走る「疾走」。前のめりのリズムにオーディエンスも飛び跳ねて盛り上がる。以前のリュックと添い寝ごはんのライブは、バンドも観客もどちらかと言えばまったりと楽しんでいる雰囲気だったのだが、今回はまったく違う。これがきっと本当のリュックと添い寝ごはんなのだ。その後「グッバイトレイン」を経て本編最後は「Thank you for the Music」。宮澤が刻むハイハット、堂免のファンキーなベースライン、曲をドライブさせるぬんのギタープレイ。軽やかで鮮やかなサウンドに乗せて松本が弾むような歌を響かせたところで、ライブは一旦終わりを告げた。
アンコールではメンバーから堂免へのサプライズ(彼の顔がプリントされた「ヒデさんTシャツ」をプレゼント)を経て、くじ引きで演奏する曲を決める流れに。このツアーではずっとそうやって決めてきたそうなのだが、この日当たったのはなんと「Thank you for the Music」だった。ファイナルにうってつけのミラクルな選曲だ。本編での1回目よりさらに盛り上がって、最高のバイブスがクアトロを包み込む。そして「みなさんに出会えて僕は本当に幸せです。またリュクソファミリーみんなで仲良く集合しましょう。ありがとうございました」と松本がフロアに語りかけ、「ほたるのうた」と「home」を披露。最後までフレンドリーで優しげな空気に包まれたまま、リュックと添い寝ごはんのツアーは幕を下ろした。(小川智宏)