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恩師グローネフェルトが明かすダニエル太郎、躍進の理由。「ファンとのコネクト」が生んだ絶大なエネルギー<SMASH>

THE DIGEST

恩師グローネフェルトが明かすダニエル太郎、躍進の理由。「ファンとのコネクト」が生んだ絶大なエネルギー<SMASH>

 温厚な笑みに、誰に対しても柔らかな物腰。

 その立ち居振る舞いを見るだけでは、彼がロジャー・フェデラーやマリア・シャラポワら、数々の世界1位のコーチを歴任した名伯楽だといっても、ピンとこないかもしれない。だがひとたび語り始めれば、溢れるテニスへの情熱と明瞭な語り口が、聞く者を強烈に引き込む。

 2019年末に、ダニエル太郎が「僕も20代後半。勝負をかける歳」だと覚悟を決め、コーチを依頼したのが、このきらびやかな履歴を誇るスベン・グローネフェルト氏だ。

 そこからの約2年半で、ダニエルのプレーは革命的な変化を見せた。

 サービスのスピードや精度が格段に上がり、時には果敢にネットにも出ていく。ベースライン近くにポジションを取り、フォアで主導権を握る姿は、かつての「守備の人」のイメージとは完全に趣きを異にした。

 さらにグローネフェルト氏は、ダニエルの内面を変えるため、旧知のスポーツ心理学者のジャッキー・リールドン氏をもチームに招く。

 現在のダニエルは、リールドン氏との契約は満了。グローネフェルト氏とは「アドバイザー」の関係にあるが、毎日のように電話やテキストで連絡を取り、現在開催中のマイアミ・オープンのようにタイミングが合えば、対面での指導も受けている。

 ダニエルにとってグローネフェルト氏とリールドン氏は、今も「多くを教えてもらった」と感謝する恩師にして友人だ。
  技術面でグローネフェルト氏が多くの改変をダニエルにもたらしたのは、今の彼のテニスを見れば明らか。ただ経験豊富な名コーチは、なぜダニエルの「内面の変化」も必須だと思ったのだろうか?

「太郎と“コネクトする(つながる)”のは、なかなか難しかったんです」

 笑顔で回想する氏の言葉は、英語とスペイン語を操り、社交的な印象の強いダニエル評としては、実に意外だった。

「確かに彼は、コミュニケーション(会話)が上手です。でもコーチと選手は、もっと深い部分で“コネクト”しなくてはいけない。そこには時間が掛かりました。太郎は色々と考え、自分で抱え込むところがあるからです」

 だからこそ就任直後の新コーチは、リールドン氏の助けを求めた。ダニエルに必要なのは、他者と真の意味で「コネクト」すること。それも、コーチやトレーナーとだけではない。グローネフェルト氏は、「ファンとのコネクト」こそが、ダニエルに必要な要素だと言った。

「ジャッキー(リールドン)はダニエルに、ファンからのエネルギーを得る方法を教えてくれた。本当に大きな仕事をしてくれたと思います。試合中も、客席に向けて拳を振り上げ、ファンを盛り上げる。するとファンからエネルギーを得られる。太郎に必要なのは、そこでした」
  氏が言及する「ファンとのコネクト」は、まさに3月中旬のBNPパリバ・オープンで、ダニエルが見せた姿そのものだ。特に2回戦のマテオ・ベレッティーニ戦では、ダニエルはスタンドの四方に拳を振り上げ、最前列に座る青年たちから熱狂的な声援を受けた。

 てっきりダニエルの友人だと思ったこの一群は、「面識のない純粋なファン」だと後に判明する。3回戦でもキャメロン・ノーリーと死闘を繰り広げ、やはり観衆を盛り上げたダニエルは、試合後にこう語っていた。

「僕のことを知らないファンとも、つながることができた。見てくれた人が『見に来て良かった』と思ってくれたのも感じたし、何かを残せたと思う。それがうれしかったです」

 それこそが、ダニエルが数年かけて取り組んできたテーマであったのだと、グローネフェルト氏の話を聞いて判明する。

 そのことを伝えると、グローネフェルト氏はこう応じた。

「あの試合の太郎は、自分のボックスだけでなく、四方をよく見ていましたよね。私たちが彼に言ったのは、知らない人にも、しっかりと目を向けること。視線が合えば、ファンは『自分を見てくれた!』と思う。するとそこに“つながり”が生まれ、エネルギーが生まれます。それはプレーヤーにとって、実はとてつもない力になるんです」
  この言葉を聞き、またも、つい先日にダニエルから聞いた言葉と氏の教えが結びついて、発火した。そのダニエルの言葉とは、ワールドベースボールクラシックのメキシコとの準決勝生観戦時の感激。日本チームの劇的な“さよなら勝利”の口火を切った、大谷翔平の2ベースヒットを目撃した時のダニエルの思いだ。

「大谷さんがヒットを打って二塁に立った時、こうやって(と両手を振り上げる)こっちを見てくれた時に、鳥肌が立ったんです。やっぱり選手が自分に目線を向けると、気持ちが上がるものなんだなって。それは普段は自分がやる立場だけれど、それを逆側から感じられたのは、すごいうれしかったですね」

 奇しくもこの時、ダニエルはコーチやスポーツ心理学者から言われてきた「選手とファンとのつながりの重要性」を、観客の立場として感得できたのだ。だからこそダニエルはあれほどまでに、「大谷さんの視線」に興奮していたのだろう。

 種々の教えと経験を経て、今のダニエルは「他者とつながる」ことが以前より容易になった。だからこそダニエルとグローネフェルト氏の間にも、一層強い信頼関係が生まれ、同じ目的地に向け取り組めるようになったと氏は言う。

「太郎のピークは、まだまだこの先に来ますよ」

 柔和な笑みで語るグローネフェルト氏の言葉は、確かな説得力を帯びて重く響いた。

現地取材・文●内田暁

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