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『わた婚』原作者・顎木あくみ×担当編集者がスペシャル対談!清霞と美世の関係性を描く秘訣は、“急激に進展させない”こと

MOVIE WALKER PRESS

『わた婚』原作者・顎木あくみ×担当編集者がスペシャル対談!清霞と美世の関係性を描く秘訣は、“急激に進展させない”こと

シリーズ累計発行部数650万部を突破した同名大ヒット小説の実写化で、大正ロマンを思わせる時代を背景に描く壮大なラブストーリー『わたしの幸せな結婚』(公開中)。政略結婚させられた2人、冷酷無慈悲で知られる軍隊長・久堂清霞(目黒蓮)と、継母と異母妹に虐げられ、愛を知らない生活を送ってきた斎森美世(今田美桜)が徐々に絆を深めていくピュアな人間ドラマだけでなく、“異能”を使ったファンタジー要素や、身体を張ったアクションシーン、迫力の映像効果も見どころで、まさに唯一無二のラブストーリーとして大ヒット公開中だ。

今回は、原作を手掛けた顎木あくみと、担当編集として先生と二人三脚で作品を作り上げてきた、KADOKAWA富士見L文庫編集部の木藤に対談形式でインタビュー。原作の誕生秘話から、映画を観た感想、キャストへの印象などをたっぷりと語ってもらった。

■「シンデレラストーリーでありながら一筋縄ではいかない展開に魅了され、書籍化をご提案しました」(木藤)

──まずは「わたしの幸せな結婚」が誕生した経緯を聞かせてください。

顎木あくみ(以下、顎木)「私はもともと乙女ゲームが大好きで。乙女ゲームには和風を題材にしたものがたくさんあるんですが、明治大正の華やかな文化に影響され、和風の世界観の物語を書いてみたいと思ったのがきっかけでした。と同時に、ウェブ小説の界隈では姉妹の片方がもう片方を虐げる物語が流行り始めていて。その2つを組み合わせ、先々の展開などについてはあまり考えないまま(笑)、見切り発車で『小説家になろう』のサイトにアップしていきました。あと、ファンタジーものも大好きで。和風の世界観にファンタジー要素が入っていたらおもしろいかなと思い、異能などの設定を加えていきました」

木藤「当時、『小説家になろう』にアップされている作品には地位や美貌、気概など、すべてにおいて強いヒロインが多くて。そんななか、ものすごくメンタルが強いわけでもなく、『私はこのまま死んでいくんだ…』と現状に甘んじている美世のヒロイン像に新鮮さを感じたのを覚えています。文章も抜群に美しかったですしね。連載が始まった当初は静観していたんですが、アップされるものを追っていたら異能のミステリー要素が出てきたりもして。シンデレラストーリーでありながら一筋縄ではいかない展開になってきて、ぜひ本にしたいなとお声がけをさせていただきました」

──当時はどんなやり取りを?

顎木「連載を始めて1か月半ほど経ってから連絡をいただいたので、『えっ、いま!?』とびっくりしたのを覚えています(笑)」

木藤「1冊の本として刊行できそうか、ドキドキしながら展開を追っていました。『いける!』と思った瞬間、すぐにお声をかけさせていただきました」

──それがいまや映画になりました。

顎木「最初に映画化のお話を伺った時は、まだ具体的なことはなにも決まっていなくて。『要望はありますか?』と聞いてくださったんですが、ありがたいお話でしたし、要望というほどの要望は特になく。その後しばらくして、主演が目黒蓮さんになったと伺い驚きました。私はもう、ただただ流されていますね(笑)」

木藤「脚本の確認があったり、演者さんの決定のご連絡があったり。パタパタパタッと決まり始めましたよね。『うわっ、本当に映画になるんだ!』と私もドキドキしました」

■「目黒さん演じる清霞の、等身大の青年らしさがすごくよかった!」(顎木)

──脚本を読んでみていかがでしたか?

木藤「小説の2巻分を、2時間の映画として美しく再編成してくださったことに感動しました」

顎木「実を言うと、書き始めた当初は1巻と2巻の内容を同時進行で展開させようとしていたんです。でも、展開がわかりづらくなるかなと思い、木藤さんと相談して分けることにして。私ができなかったことを映画でやってくださった気がして、ちょっとうれしかったです」

──キャスティングに関しては?

木藤「目黒さんに決まったと聞いて『かっこいいね~』って(笑)」

顎木「でしたね(笑)。こんなに素敵な方が清霞を演じてくださるんだなって、すごくうれしかったです。そして今田(美桜)さんはすごくキラキラなさっている方なので、どんな美世になるかまったく想像できなくて。でも、いざ映画を観たら違和感なく『あっ、美世だ』と思ったので、すばらしかったです」

──完成した映画をご覧になった感想は?

顎木「冒頭に、街を俯瞰する映像が出ますよね。それが和風なのに、ファンタジーらしさもあって。すっごくいいなと思い、期待が一気に高まりました。美世と清霞はもちろん、ほかのキャラクターたちも原作を上手く読み取り、昇華してくださっているのを感じて。実写という現実と小説をつなげてくださっている気がしました」

木藤「顎木さん、『清霞の等身大の青年らしさがすごくよかった』とおっしゃっていましたよね。ちょっとした仕草や間から、彼の人間性が伝わってきて…」

顎木「そうなんです。キャラクターではなく、人という感じがして。五道と一緒にいるシーンなど、気安い感じでポンポンと会話しているのがすごくよかった。お仕事のシーン全般、清霞の素が見えて素敵でしたね。同じ年ごろの男性が集まったら、あんな感じでワチャワチャするでしょうし」

木藤「そんなかわいらしさもありつつ、戦っている時は本当にかっこよかったですよね。軍服もめちゃめちゃお似合いでした」

顎木「実は、写真で衣装を見せていただいた時は『思ったより青が強いな』と感じたんです。でも、画面の中で見たら絶妙に映えていて素敵でしたね」

■「なにもかもうまくいかない美世を体現した、今田さんの演技がすばらしかったです」(木藤)

──清霞と美世の空気感はいかがでしたか?

顎木「2人ならではのゆっくりしたテンポをきちんと表現していただいて、うれしかったです」

木藤「ポンポンポンと話が進まない感じが、まさに清霞と美世でしたね。それぞれ手探り感があり、言葉にしたあとにちょっと後悔したりもして。そういった会話のやり取りがすごくいいなと思いながら見ていました」

──先程、「どんな美世になるんだろう?」とおっしゃっていましたが。

顎木「思っていたより、すっごくボロボロでした(笑)香耶にお茶をかけられるシーンから衝撃的で、『実写で本当にやるんだ!』と思いましたし、生身の人間がやると一層迫力がありました」

木藤「初めて久堂家を訪れるために、タクシーから降りた時も。ぬかるみに足がはまるのが、なにもかもうまくいかない美世のキャラクター性をよく表していて。ちょっとしたシーンにいたるまで、今田さんの演技がすばらしかったです」

──ファンタジー描写に関してはいかがでしたか?

顎木「異能を使う時、顔に模様が出るのがいい工夫だなと思いました。視覚的にわかりやすいですよね。小説だとそこまでの描写は必要ないので、映画ならではの試みとして雰囲気も出るし、すごくいいなと思いました。あと、鳥になる式もかわいかったです」

木藤「小さい鳥ってかわいいものだと思うんですけど、顔がメンフクロウみたいに絶妙に平坦で。首がカタカタカタって動くところとか、キモカワイイの塩梅が絶妙でしたよね」

顎木「自然界には絶対にいないだろうという違和感が伝わってきて、すばらしいデザインだと思いました」

──小説を書く時、ファンタジー描写で気をつけていることはありますか?

顎木「あまりごちゃごちゃしすぎると読者の皆さんも冷めてしまうと思うので、わかりにくいことは避けようと心掛けています。異能が出てくる時点で設定自体がちょっと複雑ではありますし。そのぶん、動きや使い方はなるべくシンプルに。もともと恋愛ものなので、バトルのシーンもあまり入れ過ぎないようにしています」

──異能を操る清霞を映像で見てみて、いかがでしたか?

顎木 「『(火の異能により)炎上している屋敷っていいな~』と思いました(笑)書いている時は自分で想像するしかないので。実際に映像で見るとすごく迫力があり、『本当に燃えてる!』と驚きました」

■「新があまりにもかっこよくて動揺してしまいました(笑)」(顎木)

──清霞と美世以外で気になったキャラクターはいますか?

顎木「新(渡邊圭祐)ですね!清霞に負けないくらいかっこよくしていただいたので、美世の揺れる気持ちもわかるなと思いました。いや、美世は揺れていないんですけど。揺れているのは私でした(笑)」

木藤「L文庫の男性編集長も新にメロメロで、見終わったあと『かっこよかった~』と言ってましたよね(笑)」

木藤「清霞をちょっと敵視していて。初対面で握手をする時の挑発的な表情など、微妙な表情の作り方がすごくよかったですよね。清霞に対する態度と美世に対する態度のギャップもあったりして」

顎木「それが新というキャラクターのすべてなんですよね。信用していない人にはにこやかで当たり障りがない対応をするけど、薄刃家や美世のことになると切実。必死なところも上手く表現してくださっていたと思います」

──小説の中で、難産だったキャラクターはいますか?

木藤「基本的に顎木さんはご自分でお話を組み立て、かなり完成した状態の原稿をくださるので、あまりいない印象ですね。特に1~2巻のキャラクターはするっと出てきていたのでは?」

顎木「パッと出てくるんですけど、その後どう活躍させるか困ることはたまにあります。映画には出てきませんが、幸次(小越勇輝)の兄の一志とか。出したはいいけど、どう活躍させようかずっと考えていたり…最近やっと活躍できたのでよかったですが(笑)。でも、木藤さんからアイデアをいただくことも多いですよ」

木藤「最近だと、6巻の時に相談してくださいましたよね。『清霞と美世が離れ離れの時間が長いから、どうしよう…?』って」

──そういった状況も含め、清霞と美世の関係を描くうえで気をつけていることは?

顎木「やっぱり、急激に進展させないようにしています。2人はああなので(笑)、一足飛びにくっつくのは不自然。それだけは最初からずっと気をつけていますね」

木藤「以前、顎木さんが『人間はそんなにすぐには変われない』とおっしゃっていたのが印象深くて。だから、美世は一進一退で同じ間違いもするし、成長したと思ったのに似たようなことで悩んだりもする。それって、すごくリアルだなと思いました」

顎木「そうですね。ただ、あまりにモタモタし過ぎるとお話の魅力が減っちゃうので。創作物としての塩梅も気にしつつではありますけど」

木藤「美世も清霞も、愛情をたくさん受けて育った人間とはまた違う。両親からの愛情を十分受けて育っていればあそこまで悩まないだろうし、人のことも信じられると思うんですが、そういった意味で2人ともまだまだ未熟なんですよね。だからこそ、6巻でお互いを本当に信じ合うところまでようやくたどり着けて。ファンタジーのシンデレラストーリーではありますが、そのスピード感も感情移入できるところかなと思います」

──ゆったりしたスピード感でありながら、キュンとさせられもします。

顎木「やっぱり、美世の感情が大きく動くところはすごく意識して書いています。ご飯を褒められて泣いちゃったり、櫛をもらって笑顔を見せたり。そういった感情の動きに触れ、清霞の感情も動いていきますし」

木藤「初めはツンケンしていた清霞が美世の健気さに触れ、彼女のことが気になっていく。美世も心がほぐれていくのにつれ、いつの間にか彼を好きになっていく。『ここで一段階、好き度が上がりました』という場面があったほうが盛り上がりますし、読者さんの心も清霞と一緒に動きますよね。しかし決してやりすぎない。そういった“キュン”の作り方が、顎木さんは本当にお上手です」

顎木「乙女ゲームで培いました(笑)。あまり過剰なスキンシップや甘い言葉があると逆に冷めるというか、『そうはならんやろ』となってしまうので」

ラブストーリーの醍醐味である“キュン”だけでなく、息を呑む異能のバトルも展開する壮大なファンタジー『わたしの幸せな結婚』。ぜひ原作と読み比べながら、その美しい世界にどっぷりと浸かってほしい。

取材・文/渡邊ひかる
 
   

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