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〈深作欣二監督 没後20年企画第2回〉 「走れ。」と深作さんは言った。山本太郎氏に約20年ごしの“恩師”への思いを聞く

キネマ旬報WEB

徹底した娯楽とバイオレンスの巨匠として20世紀後半の日本映画界を怒濤のように駆け抜けた深作欣二。没後20年を迎える今年、改めてその魅力に光を当てるシリーズ企画の第2弾。今回は深作の実質的な最終作となった「バトル・ロワイアル」(00)に出演、その後の人生に大きな影響を受けたという山本太郎氏が登場。いまは国会議員として日々奔走している山本氏に、約20年ごしの“恩師”への思いを聞いた。

「山本太郎と心中する」という言葉 ©2000「バトル・ロワイアル」製作委員会 「バトル・ロワイアル 4Kリマスター版」(00)◎東映チャンネルにて4月放送

──深作欣二が1962年に撮った「誇り高き挑戦」(62)のラスト、鶴田浩二はいままで嵌めていたサングラスを外し国会議事堂を眩しく見やる。2月15日、その議事堂と隣接する参議院議員会館の6階に山本太郎を訪ねた。現在、参議院議員でれいわ新選組の代表を務める山本は、22年前には「バトル・ロワイアル」(00)で「男子5番・川田章吾」として過酷な戦場にいた。15歳の中学生が主役である映画のオーディションに当時26歳だった彼はなぜ応募したのか。

山本: 深作欣二監督に会いたかったからです(笑)。小学校のとき、「蒲田行進曲」(82)や「里見八犬伝」(83)を、そのあと「仁義なき戦い」(73)を観ていました。受かる、受からないは二の次。
とはいえ、中学生が主役と聞いていましたから、自分の年齢からすると彼らを取り巻く大人の役が順当ですが、主役を獲りたかったんです。そこで、スポーティーな服を着て、若作りして、オーディション会場に向かいました。僕の順番が回ってきて、深作さんに「いくつだ?」と訊かれました。「いきなり来たか」と思って、腹をくくり「19です!」と大声で答えると、「違う。キミの身長だ!」(笑)。

オーディションで演じたのは、僕が藤原竜也と前田亜季の前で亡き彼女の写真を見ながら思い出を語るシーンでした。渡された脚本のコピーを机の上に置いて、僕が何も持たないでしゃべっていると、「手に何か持ってないとダメだな」と深作さんは自分の財布の中からカードを取り出して、僕に渡したんです。「三越カード」でした(笑)。「三越カード! こんな貴重なものをお借りしていいんですか?」と僕がおどけると場が和みました。

芝居が始まると深作さんの指摘や指示はきわめて具体的でした。「ちょっと読んでみて」って言われて、僕がやると、「それじゃあ、もうちょっとここをこういうふうに、こういう気分でやってみろ」と指示する。で、そういうふうにやったら「おお、なかなかいいねぇ」と褒めてくださる。で、「ここをちょっと変える別のパターンでやってみようか」と次に注文を出す。僕が返す……短いセッションの間に、自分が成長し、少しずつ芝居の幅が広がっていくのが分かるんです。「これはオーディションじゃない。大教授から受ける個人レッスンだ」と思えて、嬉しかったですね。

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いまでも覚えているのは、前の戦いで亡くなった彼女を偲ぶセリフへの深作さんの注文です。「この段階では自分が経験した出来事からは時間が過ぎているわけだから、いま最近おきたことのようにセンチメンタルすぎないほうがいい。もうちょっと抑えて。その経験が少し遠い記憶になりつつある雰囲気で。もっと淡々とやってみて」とおっしゃった。この贅沢な時間がこのままずっと続いてほしい……と願いました。

──しかし、オーディションの結果は待てど暮らせど来なかった。

山本: 深作さんとお会いする1カ月ほど前、阪本順治監督の「新・仁義なき戦い。」(00)の面接を受けていて、その結果が出る前に深作さんとの出会いがあったんです。けれどもその後、阪本監督の作品である役をいただける方向になり、出演するか否かを決めなきゃいけなかった。

一方、「バトル・ロワイアル」は使ってもらえるのかもらえないのか、分からない状況でした。痺れを切らしてマネージャーに「バトル」の状況を問い合わせてもらうと、「監督以外、全員が猛反対している」と。製作委員会や東映本社の方たちは、「中学生の話なのに、何であの役が山本太郎なんだ。無理がありすぎる」という理由で。それに対して深作さんが「太郎は絶対に使う」とテコでも動かず、キャスティングは揉めに揉めている。あるプロデューサーが深作さんに、「山本太郎と心中する気ですか?」と訊くと、「ああ、山本太郎と心中する」とおっしゃったと。

この言葉を聞いて、「人生のご褒美だ」と思いました。これを「一生の宝物」にしていこう。深作さんがそこまで言ってくださるのなら、結果的に「バトル」に出られなくてもいいから、とにかく待とう、と心を決めて、申し訳ないけれども、自分から面接を受けに行った「新・仁義なき戦い。」をお断りしました。

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