
松重豊演じる主人公・井之頭五郎が全国各地の街角にひっそりとたたずむ飲食店を訪れ、その店の名物・逸品をひたすら食べまくる人気ドラマ「孤独のグルメ」。2012年1月に最初のシリーズがスタートし、「深夜の飯テロドラマ」と呼ばれて根強い人気を誇ってきた同作の最新シリーズ「Season10」のBlu-ray BOXとDVD BOXが3月24日にリリースされた。※レンタル同日リリース。
実在する飲食店で実際のメニューを食べまくる「五郎VS料理」のセミドキュメントシリーズ開始当初は深夜にひっそりと咲いた、まさに知る人ぞ知る“隠れ家”的な存在だった「孤独のグルメ」が、昨年10~12月に放送された「Season10」で10周年を迎えた。ドラマのフォーマットはこの10年間、大きく変わることなく、当初から完成していたスタイルをずっと守り続けている。
輸入雑貨商を営む主人公の井之頭五郎は営業先でひと仕事を終えた後、訪れた街で空腹を満たすため、たまたま見つけた食事処にふらりと立ち寄る。状況的には切羽詰まっている時が多いが、その割には食にこだわり、店選びにもこだわる五郎。辿り着いた店ではメニュー選びに悩みまくり、ようやく出てきた料理の見た目や味を評価するボキャブラリーの豊富さは料理評論家にもヒケを取らない。こうした五郎の葛藤や興奮、感動はすべて彼の「心の声」としてモノローグで語られる。まあ、そりゃそうだ、いつも“独り”だしね。実際に全部声に出していたら、ぶつぶつ独り言をつぶやきながらウロウロしてメシ食ってる、かなりアブナイ中年親父だもの。
毎回、劇中で五郎が訪れる飲食店はその街で実際に営業している実在の店。店主役には基本、俳優がキャスティングされているが、登場するメニューはその店で提供されている料理で、劇中で松重が食べるのも店主が実際に作ったものだ。「五郎VS料理」はいつも、限りなくドキュメンタリーに近い空気をまとって描かれる。ドラマ本編の終了後には原作者の久住昌之が撮影で使われた店を訪れる「ふらっとQusumi」というコーナーがあるが、ここで本物の店主が画面に登場すると店主役の俳優とそっくりな佇まいの場合が多く、キャスティングの妙味と俳優の技量に驚いたり感心したりニヤリとしたり。

ドラマの最初の企画段階では「おっさんが独りでメシ食ってるだけのドラマなんか誰が見たい?」と一蹴されたとの噂もある本作。他局でボツになりかけた企画をそのまますくい上げてGOを出したテレビ東京の慧眼もさることながら、やはり、「食」という人生でも大きなウエイトを占めるテーマの普遍性を信じ、食べたいものを、食べたいように、自由にかつ大胆に食していく五郎の「至福の時間」を、余計な装飾を施すことなく松重豊の豪快な「食べっぷり」と繊細な「心の声」に託した、作り手たちの“一途さ”にこそ成功の要因がある。本作がシリーズを重ね、じわじわと人気を拡大していく一方で、「飲食」をテーマに据えたドラマが深夜帯を中心に次々と増殖し、2010年代中盤からまさに「グルメドラマブーム」と呼べる状況が生まれた。その先駆者であり、ブームを常に牽引し続けてきたトップランナーこそが「孤独のグルメ」にほかならない。
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今回の「Season10」全12話で五郎が訪れた飲食店は12店舗、食べたメニューは55品にのぼる。「Season1」からの通算では、スペシャル版なども含めすでに150店近くの飲食店を訪れているという。食べたメニューがトータルで全何品か、ぜひ誰か調べてもらえないだろうか。
「大晦日スペシャル」2作と、メイキングや貴重な証言が満載の特典映像も収録「Season10」のBlu-ray BOX とDVD BOXには、2021年の大晦日に放送され翌年の「東京ドラマアウォード2022」で単発ドラマ部門の優秀賞を受賞した「孤独のグルメ2021大晦日スペシャル 激走!絶景絶品・年忘れロードムービー」と、「Season10」最終回オンエアの翌週のこれも大晦日に放送された「孤独のグルメ2022大晦日スペシャル 年忘れ、食の格闘技。カニの使いはあらたいへん。」の2本のスペシャル版も収録されている。スペシャルでは五郎が訪れる店が複数で、ドラマ部分もいつもよりボリューム多めに描かれるが、特にこの2作はともに五郎が車で移動するロードムービーで、その間をつなぐディテールが「Season10」本編にも登場するだけに、「2021スペシャル→Season10→2022スペシャル」という一本の長大なストーリーとしての見方もできる。

特典映像には、「Season10」撮影の舞台裏を紹介する「MAKING OF 孤独のグルメ Season10 ~10 年目もいただきます!~」を収録。第1話から順に、それぞれのエピソードにおけるトピックスをいろいろな切り口から取り上げていく。「孤独のグルメ」ならではの独特な食事シーンの撮影法や現場で起きたハプニング、台本に書かれていない追加メニューを決める松重とスタッフの入念な打ち合わせ風景など、ファンにはたまらない裏話が満載。案外重要な情報や貴重なこぼれ話が、ちょっとしたナレーションや字幕でさらっと触れただけですぐ次に進んでしまい、見ていて理解が追いつかず「えっ!? えっ!?」となることもあったほどだ。