
人生の選択をテーマに、大半が舞台上で繰り広げられる斬新な映画「追想ジャーニー」を手がけた監督は、生き方も考え方も破天荒な映画人だった――。昨年11月に劇場公開され、4月1日からU-NEXTにて配信がスタートする。
谷健二監督は斬新な演出プランを基に、3日間でこの長篇映画を撮り切った。今や映画は時代の最先端ではなく「エンタメの中でもマイナーの存在になる」と自嘲気味に語るものの、「総合芸術として映画以上のものはありえない」と、これからも面白いと思ってもらえる作品を目指して作り続ける覚悟だ。
映画の新しい未来の形を提案――「追想ジャーニー」は、48歳の売れない役者(高橋和也)が、18歳の高校生だったときの自分(藤原大祐)と出会い、人生の岐路でアドバイスをするうちに現在の自分と向き合うようになっていくという作品です。主人公と同じ40代の谷監督が自分自身を投影させた部分はあるのでしょうか。
谷 確かに初の長篇映画の「リュウセイ」(2013年)や、3作目となる前作の「一人の息子」(2018年)は、人生観を含めて自分とオーバーラップさせたところはあります。リアリティーがあって、ちょっと行間のある日本映画っぽい作品を目指したのですが、ただ今回は、どちらかというとエンタテインメントに振り切ってみようと思いました。
実はコロナ禍の真っただ中に撮った「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」(2021年)という中編作品があって、スタッフもキャストも制限してコロナの影響を最小限に抑えて作りました。大きな稽古場で全部の撮影をこなしたのですが、あんなふうにワンシチュエーションでやるのも面白いなと思って。これまではロケ場所を変えた、いわゆる普通の映画を作ろうとしていたが、エンタテインメント性の高い映画を作ろうと思ったとき、ワンシチュエーションに絞ったら予算にも余裕が出て、様々な面でクオリティーを担保できると考えたんです。ある程度のスペースがあれば、いろんな方向から撮影できますからね。
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――そのスペースというのが演劇の舞台だったのですね。18歳と48歳の主人公は、舞台上に登場する幼なじみやクラスメート、後の妻らとのやり取りを通して、自分の過去、現在、未来について語り合います。
谷 最初は体育館のような大きな場所で撮ろうというだけでしたが、シェークスピアの「この世は舞台だ」という言葉を思い出して、舞台でやった方が面白いんじゃないかと思ったんです。参考にしたのは、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)辺りですね。舞台を観客席から撮った映像はありますが、舞台上からの映像となるとなかなかないんです。なので面白い画が撮れそうだなと思いました。
――客席でも撮影していて、自分で自分の過去を観客のように見るというアイデアがいいですね。
谷 突っ込みどころはあるでしょうが、映画と舞台のいいとこ取りが出来ている気はします。撮影は3日間で終わったのですが、リハーサルはめちゃくちゃやりました。役者はまだ決まっていなかったので、インターネットで若者を7人くらい集めて、全部のシーンをなぞっていく。スタッフは僕一人でしたが、僕の頭の中では全部できているので、本番に臨むと撮影スピードが非常に速い。撮影現場で悩むのが一番無駄ですからね。おかげで劇場公開作品としては異例の短期間での撮影に成功しました。
映画との出逢い、そして映画監督へ