
アメリカにおける移民の不法な児童労働の実態がニューヨーク・タイムズの調査報道記者ハナ・ドライヤー(Hannah Dreier)によって明らかになった。政府も早急に対応に動き始めた。
◆名の知れたブランドの工場勤務も
2月25日に公開されたドライヤーの記事は、中米のホンジュラス、エルサルバトル、グアテマラなどからメキシコを経由してアメリカに入国してくる未成年移民の数が増えており、その多くが適切な保護者不在のまま、工場や工事現場などの危険な環境で働いているという実態を明らかにした。ドライヤーはAP通信やワシントン・ポストなどでのキャリアを経て、2022年より調査報道記者としてニューヨーク・タイムズに所属。過去にピューリッツァー賞のファイナリストに選ばれるなど実力ある人物で、10年近く移民に関する報道を行ってきた。今回の記事は、アメリカ20州における100人以上の未成年移民からの聞き取り調査、関連記録の参照、そして弁護士、ソーシャルワーカー、教員、当局の関係者などへのインタビューをもとにしたものだ。
たとえば、15歳のキャロリナ(Carolina)はアメリカのシリアルの国民的ブランド「チェリオ(Cheerios)」のミシガン州の工場で、ひたすらシリアル袋の箱詰め作業を行う。工場にはキャロリナのような未成年の子供たちが普通に働いている。ほかにも国民的なブランドの食品工場や、社会的な活動で知られるアイスクリームメーカーのベン・アンド・ジェリーズ、健康志向・高級志向のスーパーマーケットチェーン、ホールフーズに卸される食品の製造を行う工場で、未成年の子供たちが働いている。彼らの多くは、日中は学校に行き、放課後から夜にかけて工場で勤務する。場合によっては12時間、14時間といった長時間労働を課せられ、疲労のため、学校に行っても勉強どころではない。生活と母国への仕送りのために勤務を優先し、学校をドロップアウトせざるを得ない子供たちも少なくない。
◆未成年が守られていない状況
連邦法は、未成年者が工事現場や工場などの危険な場所で働くことを禁じている。また、農場以外の場所において、16歳以下の子供が学校のある日に3時間以上、もしくは夜7時以降勤務することも禁じられている。しかしながら、危険できつい仕事はそもそも供給が少なく、未成年の移民の子供たちがその担い手となってしまっているのが現状だ。法令違反に対する罰則も基本的には罰金のみで、法令遵守が徹底されにくい状況だ。
記事によると、昨年アメリカに保護者なしに入国した未成年者の数は13万人にも上るという。この数字は5年前の3倍にあたり、今年もさらに増えることが予測されている。これらの未成年者は不法移民というわけではなく、制度上は政府の保護・管理下にある子供たちだ。米保健福祉省(Department of Health and Human Services:HHS)には、子供たちが入国した際は、適切な保護者のもとに送り届け、人身売買や搾取から子供たちを守る責任がある。昨今、あまりにも未成年移民の数が増え、多くのケースを処理するために、保護者の審査プロセスが簡素化されてしまった。ソーシャルワーカーたちは、子供たちが必ずしも安全な状況にないことをわかっていながらも、ケース処理の迅速化という政府の方針のプレッシャーを抱えつつ、日々の対応に追われているという状況だ。
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HHS関係者によると、2010年ごろは未成年の保護者は両親であることが大体のケースだったが、2014年ごろからはその状況が変わり、親族の知り合いなど子供と面識もないような人物が保護者になるケースも増えた。保護者になることで多額の金銭を要求するビジネスも存在し、移民の子供たちは自分の生活費の確保や仕送りだけでなく、保護者に対する借金の返済といった金銭的プレッシャーを抱えるケースもある。
ドライヤーの1年近くにわたる実態調査によって、児童労働の具体的な実態が明るみになったが、子供たちが工場などで働いているという状況は明らかで、企業の責任者や関係者らが見て見ぬふりしてきたことだと語る。しかしながら、記事を受け、政府は意外にも早く動き出したと彼女はポッドキャストで驚きを示した。バイデン政権はタスクフォースを編成し、児童労働に関与する企業をあぶり出すとのことだ。児童労働が発覚すれば、監督者に対して1年の実刑を科すという法案も議論されている。一方で、HHSに関しては根本的な改革がなされていないようだとドライヤーは言う。子供たちを守りつつも彼らの生活や仕送りのための就労をサポートするためには、単に違法就労を禁止するだけでなく、就労許可証を取得するための法的支援も必要だ。今後さらに増加すると見込まれる未成年移民に対して、より包括的な支援が求められる。