
「あれ、また会ったね」
筆者が都内の最高級クラスのホテルのエレベーターで会ったのは、ガタイのいい2人の中年白人男性だった。もうかなり昔のことである。
タンクトップに半ズボンというラフな服装で、とてもビジネスマンという雰囲気ではない。前日にエレベーターで一緒になった際に「日本人ですか。美味しいお店はどこかな」と聞かれていたのだ。
「どこから来たの」と私が聞くと「オーストリアだよ」とニヤッと笑う。いかにもゲルマン民族の典型のような、顎が張り四角張った顔だった。
「オーストリアか。ウイーンやリンツには何度も行ったことがあるけれど、あなたは何をしているの」
広告の後にも続きます
「そりゃあ、オレの体を見ればわかるだろ。きこりだよ」
そう言って白いタンクトップの両腕の力こぶを自慢げに見せ、隣の男性と「グフフフ」と笑い合ったのである。
この時の私の目的は、このホテルに泊まっていた世界的歌手のマドンナをウォッチすることだった。だから、彼らのことは気にも止めなかったのである。
ホテルの1階ロビーには、マドンナのファンらしき若い女性たちが十数人、待機している。私もその中に混じって椅子に腰かけていた。しばらくすると「キャー」という歓声が上がって、エレベーターにファンが近づいていく。マドンナの登場かと思い、遠くから眺めていたら、エレベーターから出てきたのは例の2人組だった。
なぜあの2人に女性が駆け寄って行ったのかがわからず、私は思わず隣の若い女性に「あれは誰なのか」と聞いた。すると「知らないんですか」とアキレたように言われたのだ。女性はこう説明してくれた。