2023年4月で任期満了を迎える日銀の黒田東彦総裁は3月9日から2日間開かれた金融政策決定会合に臨んだ。総裁として最後の決定会合を終えての記者会見は、大々的に異次元緩和を打ち出した就任時の華やかさとは違って、淡々と政策の正当性を語るばかり。

あっけない幕切れだった。
期待されたYCCの見直しなく、「現状維持」 市場が荒れたのは、「黒田氏への失望売りだ」
過去最長の10年にわたって日銀トップに君臨し、良くも悪くも日本経済に大きな影響を与えてきた黒田氏にとって最後の決定会合。直前、市場は一種、異様なムードに包まれていた。
総裁就任後、初となる2013年4月の決定会合で、自ら「次元が異なる」と明言した大規模な金融緩和の導入を打ち出した黒田氏のことだ。市場は「最後の会合でも何かサプライズがあるのでは」と警戒し、大手紙のベテランの日銀担当記者でさえ「政策変更の可能性は五分五分だ」と身構えた。
市場が有力視していたのは、低金利環境を実現するため日銀が国債を大量購入するイールドカーブ・コントロール(長短金利操作=YCC)の見直しだった。
「すでにイールドカーブ・コントロールは限界に近い。日銀にとっても足かせとなっているイールドカーブ・コントロール自体を撤廃して、植田和男・次期日銀総裁のフリーハンドを増やすのでないか」
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あるエコノミストは、黒田氏が大規模緩和の「清算」に踏み込むと予想していた。「立つ鳥、跡を濁さず」というわけだ。
しかし、黒田氏が最後に出した結論は「現状維持」。大規模緩和の後始末は、植田和男・次期総裁に丸投げしたかたちだ。
肩すかしをくったかっこうの市場は荒れた。為替は一気に円安に振れ、株価も下落。
「黒田氏への失望売りだ」――市場からはこんな声もあがった。
日銀が買い上げた大量の国債やETF、「負の遺産だとも思っておりません」
決定会合終了後、黒田氏は記者会見に臨んだ。そこからは、かつてのような覇気は感じられなかった。記者から大規模緩和の副作用など厳しい質問が相次いだが、黒田氏は淡々とした口調で自己弁護を繰り返した。
「緩和政策は成功だったのか」との問いには、雇用や賃金の改善を挙げ、「金融緩和というのは成功だった」。