「目を疑ってスローで確認してしまった」「いまだに現役とは…」――千葉大学・一川誠教授らの研究成果を伝えるニュースの一場面がSNSで大きな注目を集めている。緊張が高まると物事がスローモーションのように見える現象に関する研究発表を報じるもので、研究室にはブラウン管(CRT)型ディスプレイが並んでいた。

なぜ、ブラウン管型ディスプレイを用いていたのか。J-CASTニュースは2023年3月16日、一川教授に取材した。
「わざわざ、ブラウン管型のディスプレイを用いて実験をしました」
3月14日放送のNHK総合「NHKニュースおはよう日本」で、千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程3年生の小林美沙さんと大学院人文科学研究院の一川教授の研究チームの成果が報じられた。
ニュースでは、ブラウン管型ディスプレイの画面をのぞき込む一川教授の姿が映されていた。ディスプレイの下には、1997年に発売されたデスクトップパソコン「Power Macintosh 7600/200」が置かれていた。
ツイッターでは、この様子に注目が集まった。
「さすがに、過去の資料映像の使い回しでしょう」
「昨日ニュース見てた時、思わず『ブラウン管!?』と言ってしまったくらいには驚いた」
「20年以上前のパソコンなのでは…もっと良いパソコン買う予算もないのか…」
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取材に対し、一川教授はブラウン管型ディスプレイでなければならない理由があると説明する。実験では、被験者がどのくらいの速さで映像の変化に気づくことができるか探った。
このような目で物事を捉える速さを調べる実験では、ブラウン管型ディスプレイを用いることが多いという。液晶画面と比べて、指示を出してから応答するまでが速いためだ。
「今回の実験でも、わざわざ、ブラウン管型のディスプレイを用いて実験をしました。決して、予算がなくて、新しい液晶ディスプレイが変えなかったということではなく、研究の用途に合わせて、必要な高い精度で画像を提示できるブラウン管型ディスプレイを用いたということになります」
なぜ「ブラウン管型ディスプレイ」のほうが良いの?
なぜ、液晶画面よりもブラウン管型ディスプレイのほうが良いのか。一川教授は「光を提示する際の原理」に違いがあると説明する。
「ブラウン管型では、PCからの電圧信号の入力に対して、それぞれの画素の部分に銃で光子を飛ばすことで光を提示するという、とても『直接的』な原理を用いています。信号が入れば光が提示され、信号がなくなれば光は提示されなくなります。他方、液晶型では、PCからの電圧入力によってディスプレイ表面のフィルター中の液晶分子の方向を揃えることで、バックライトの光を遮るシャッターを形成するという『間接的』な光の提示方法を使っています」
ブラウン管型ディスプレイでは直接的な光の点滅で表現するのに対し、液晶画面はバックライトとして常に光が灯っている。
「バックライトとしてRGBの光はずっと提示されていて,それを遮る液晶シャッターの開け閉めで光を提示するので,シャッターの駆動とその解除にどうしてもそれなりの長さの時間がかかることになります」
このシャッターによるわずかな遅延が、研究には大きな影響を与えてしまう。
「液晶の反応特性は技術改善でどんどん速くなっていますが、それをいくら速くしても数十ミリ秒はかかってしまいます。視覚の時間分解能を測定するためには、10ミリ秒程度の遅れがあっても影響を受けるため、液晶のディスプレイをつかって正確な測定を行うのは困難と考えられています」
どうやって手に入れているの?
1秒間に何枚の絵が動くかという「リフレッシュレート」については、一般的なディスプレイは60ヘルツで、ハイスピードな操作が求められるゲーミングディスプレイは144以上のものが一般的だ。