ふたつめは、優れた状況判断からくるその場の制圧力だ。呂布はバラエティ番組でも抜群の存在感を放っており、決して“モブキャラ化”することがない。それは彼の制圧力が影響しているのではないか。
象徴的なのが、フリースタイルバトル『凱旋MCbattle 東西選抜冬ノ陣2020』におけるMU-TONとの決勝戦。緊密な攻防が展開されるなか、MU-TONは、呂布が持ち物の財布、ジャケット、木の棒をステージの四隅に置いているところに着目。「あれ? 財布とこれ、ジャケット、忘れちゃって呂布さん 緊張してるんスかねえ 俺が持ち帰るのは勝利、こいつが持って帰るのは甲子園の土だ」と熱く煽る。MU-TONは、呂布が無防備に持ち物を置いているところを「しめた」と考えたのだろう。すると呂布は「そこに財布 そこにジャケット」と指をさしていき、四隅の残りの一角にトレードマークのサングラスを置いて「魔法陣完成 完璧だぜ、俺の描いた手のひらの上で踊ってら お前ら見てみ? これがファンタスティックマジックヒップホップラップ お前の心に刻むぜ」と、もはやどこからどこまでが計算なのか分からない、即興と呼ぶにはあまりにも強烈すぎるアンサーをしてみせた。
「魔法陣完成」のときの観客のテンションのあがりようは、動画上だけでも鳥肌が立つ。もし会場でそんなバースを目撃したら、何年、いや、何十年先も脳裏に焼き付いて離れないだろう。誰もが呂布の虜になった名勝負。彼の場の制圧力がなせるものだった。
呂布カルマはどこにいても主役になれる。その強烈なカリスマ性がバラエティでも存分に発揮されている。
■R-指定との伝説バトル、絵になる降参劇
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最後に、どんなことがあっても絵になるところを忘れてはならない。見た目はコワモテ、しかもラップが異常に強くてうまい。かつて、ラップバトルではタブーとされているボディタッチを食らったとき、相手の胸ぐらをつかんだこともある。
そんな“帝王感”たっぷりの呂布でもバトルでタジタジになったことがある。その「負けっぷり」で脚光を浴びたのが、ラップバトル番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)2017年4月18日放送回におけるR-指定との因縁のバトル。R-指定の圧倒的なワードセンスを食らい、どんどんプレッシャーをかけられていった呂布は、「もう全然いいわ、言うことねぇわ やっぱこいつ強ぇわ、もうダメだ 強い……」とまさかの降参。前代未聞ともいえる白旗バースに会場が騒然となり、その戦いは伝説化した。ただ、呂布の気持ち良いほどの負け方は逆に絵になるものだった。
街ロケ番組『相席食堂』(ABC)2021年9月21日放送回のまさかの“ポンコツ”ぶりもとてもおもしろかった。ラップ王者として出演し、MCの千鳥も「どれだけ口が達者なのか」と期待を膨らませていたところ、たどたどしいコメントを連発。ラッパーでロケに不慣れなのでそれは仕方ない……と思いきや、得意の即興ラップを披露する場面でもスムーズにバースが出てこなかった。呂布を知るものからすればそのギャップがチャーミングに映り、知らない人もパッと見の“帝王感”とはかけ離れた“ポンコツさ”に逆にひきつけられたのではないか。
絵になる“ポンコツ”ぶりが「神回」として好評をあつめ、同年11月30日放送回で2度目の番組出演も果たした。ある意味、そこで見せた人間味がその後のバラエティ進出に一役買ったのではないだろうか。
ほかにも、生配信でのリスナーとのやりとり、ディベート番組『マッドマックスTV論破王』(ABEMA)でのひろゆきこと西村博之との名勝負の数々。いずれも「呂布」のテレビスターとしての才能を垣間見ることができる。もしかすると今後、呂布カルマの地上波冠番組もあるのではないか。そう思わせるほどの活躍である。(田辺ユウキ)