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【小説】もう二度と会えないとしても、僕はただ祈り続けるしかない

幻冬舎ゴールドライフオンライン

花が大好きでちょっと不思議な男の子・優凪。ある日、太陽と月のように正反対な二人の少女が、彼に恋をする。美しい花々に彩られた、淡くて切ない恋の物語。※本記事は、なるかみのいかづち氏の小説『はなのことのは ものがたり 庭草編 かたばみのおもひ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

第一 雑歌の章その一 

(かささぎ)の橋※1

しめじめと降る雨の中、定刻通り午後八時にバイトを終えた彼は駅まで続く道をいつもどおり一人辿(たど)っていた。姿を隠すには小さい傘に街路樹から滴(したた)り落ちる雨粒の音が心の扉を叩くのに気づいてはいるが返事はできない。その傘から垂(しだ)れた雨粒はコートにはじかれ、穴の開いた心を素通りして次々に路面に吸い込まれていく。

彼の前には小さな女の子がピンク色の小さい傘を持ち、その横にはお父さんの紺色の大きな傘が並んで歩いていた。路地に差し掛かるとその女の子は左右を確認せず横断歩道を走って渡り、振り返って得意げに父親を見ていた。

「こら、ちゃんと左右を確認して、自動車が来なかったら渡るんだよ」と父親が窘(たしな)めると、「はーい」といい返事で答えたが、少し先の路地でまた同じように左右を見ずに走って渡った。

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それを見た父親が今度は大きな声で叱った。

「リカ――危ないからやめなさい」

その言葉にビクッと反応して立ち止まる彼。

「車にぶつかったら、死んじゃうんだよ」

その言葉は彼の心に波紋を広げる。

「パパ……死んだらどうなるの」

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