
詐欺師の世界では「舞台装置は大掛かりなほうがいい」「ウソは壮大に」がセオリーです。このセオリーを利用して、一代で巨大外食産業グループの『コロワイドグループ』を築いた蔵人金男会長(72歳)から「31億円以上」も騙し取った79歳の詐欺師がいました。稀代のビジネスマンである蔵人はなぜ詐欺に引っかかったのか、その巧妙な手口とは……ライターの藤原良氏が紹介します。
M資金詐欺の被害者となった「有名資産家」
被害総額約31億円以上という莫大な額のM資金詐欺事件を起こした男たちは主犯格と目される武藤薫、そしてXとYら3名で全員50歳以上の男性だった。Xに至っては79歳という高齢者だった。
彼らが詐欺容疑で神奈川県警捜査二課によって2020年6月から7月にかけて、それぞれ逮捕されたことでこの事件は明るみとなった。
マスコミは「M資金詐欺!」と大々的に取り上げ、市民は「そんなやり方で騙される人がいるのか?」と仰天し、約31億円以上という巨大な被害総額に唖然となった。
このM資金詐欺事件の被害者となったのは会社経営者・蔵人金男会長(72歳)だった。
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蔵人会長は日大藤沢高校卒業後、父親が経営していた神奈川県逗子市にあった甘太郎食堂の経営を引き継ぎ、手作り居酒屋甘太郎一号店を開店したのを手始めに、甘太郎を有力チェーンに押し上げながら、
有名回転寿司チェーンのかっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイト株式会社や有名焼肉チェーンの牛角、しゃぶしゃぶ温野菜、フレッシュネスバーガーを運営する株式会社レインズインターナショナルなどを次々と買収し、一代で外食産業大手『コロワイドグループ』を築いたビジネスマンであり、神奈川県逗子市内でも資産家として有名だった。
このような立志伝中の人である蔵人会長が、いったいどのようにしてM資金詐欺の被害者となってしまったのか?
容疑者たちの「アジト」
武藤、X、Yの3名は、東京・丸の内にあるZビルディングの高層階にあるレンタルオフィスに『一般社団法人アジア経済協力会議所』を構えていた。
この社団法人は、すでにXとYが持っていたジャパンドリームという会社を発展させたものだった。そして武藤は、この社団法人を根城にして自らのことを『元財務省事務次官』で『東京オリンピック・パラリンピック組織委員会事務総長の武藤敏郎の甥』と称した。また国際通貨基金で働いていた『マック・アオイ』と名乗ることもあった。
社団法人格とはいえ、社屋はレンタルオフィスである。しかし『元財務省事務次官』『東京五輪関係者の親族』『国際通貨基金のマック・アオイ』と、信頼されやすい要素が大いにあった。