
デジタル競争力の低下は、国家の衰退に直結する危機的課題です。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の必要性を再認識するために、日本のDXの現状について見ていきましょう。DXのエキスパート・荒瀬光宏氏の著書『1冊目に読みたい DXの教科書』(SBクリエイティブ)より一部を抜粋し、解説します。
デジタル後進国「日本」の現状
昨今、デジタル後進国と言われている日本について、データから確認します。紹介する「デジタル競争力ランキング」は、IMD(国際経営開発研究所)が公表している国際指標です。
■デジタル「環境」では先進国だが…
デジタル環境の重要な要素として通信などのデジタルインフラの整備状況があります。日本のインターネット利用率は83.4%と世界トップクラスで、モバイルブロードバンド普及率も世界1位です。デジタル関連研究開発への投資も世界有数であり、日本のデジタル環境は先進国と言えます。
■デジタル「活用」では後進国
デジタル環境では先進国ですが、2021年の日本のデジタル競争力は、64か国中28位と、低迷を続けています(図表1)。サブカテゴリーでは、人材、規制の枠組み、ビジネスの俊敏性が特に足を引っ張っています(図表2)。人材の項目を構成する指標の1つである国民のデジタル・技術スキルは、62位と世界最下位クラスです。これらの指標から、日本はデジタルインフラや基礎技術は強いものの、デジタルの活用は進んでいないことが読み取れます。


広告の後にも続きます
日本においても、コロナ禍によりネットショッピング、オンライン教育、テレワークなど、オンライン前提の新しい生活様式が定着しつつあります。しかし、2022年のインターネット利用時間においては、世界平均の6時間38分に対して、日本は4時間26分(世界平均の67%)にとどまっており差は大きい状況です(図表3)。

デジタル先進国と言われるエストニアでは、ほぼすべての行政手続きがオンラインで完結します。しかし日本では行政のデジタル化の遅れにより、コロナ対策の特別定額給付金10万円を全国民に配布するのに、1,458億円もかかった上に、全国の自治体職員の貴重な工数を浪費しました。
民間企業においては、デジタルを活用したユニコーン企業(起業10年以内で評価額が10億ドル以上の企業)が全世界で1,000社に達する中で、日本企業は10社もありません(図表4)。デジタル競争力の低下は、経済力の低下につながり、未来への投資や、国内産業を維持することすらできなくなる重大な課題です。

2023年3月16日