定年前の準備として「お金の見える化」を挙げましたが、これらの支出は家計簿をつければ把握できます。そして、老後の日常生活費は、現役時代の7割程度が目安です。
2つめの「自己実現費・一時出費」は、簡単にいうと人生を充実させるための支出です。
たとえば、趣味や旅行に使うお金や、自宅のリフォーム、車の買い替え、子どもへの結婚資金の援助、孫へのプレゼントなどなど。あれば楽しいけれど、なくても生きていけることに使うお金です。
3つめの「将来の不確定出費」というのは、医療費、介護費、高齢者施設への入居といった発生するかどうかわからない支出です。また、発生しても「いくらぐらいかかるのか」がよくわかりません。
◆3つの支出は財源とセットで考える
これらの支出はそれぞれ性質が異なることに気づきませんか?
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1. は「死ぬまで必要なお金」、2. は「あってもなくても困らないお金」、3. は「必要になるかどうかわからないお金」です。
「3つの支出」に備える際に押さえておきたいポイント
この3つの支出は、それをまかなうための財源とセットで考えると非常に合理的です。

3つの使いみちに合わせて、お金の出どころも3つに分け、それぞれをリンクさせておくのです。これは、「定年後のお金の三分法」という考え方です。
まず、「日常生活費」は、何があっても死ぬまで必要なお金です。だとすれば、死ぬまで支給されるお金=公的年金でまかなうというのが自然です。
企業年金があるという人は、それにプラスαとして使ってもいいと思います。しかし、企業年金はもらえる期間が決まっています。途中でなくなることを考えれば、公的年金の範囲内に生活費を収めたほうが賢明でしょう。
次に、「自己実現費・一時出費」は、おもに楽しみに使うお金です。これは、60歳以降に働いて得られる収入でまかなうのがいいでしょう。
そうすれば、その分は貯えておく必要がありません。また、将来、病気で働けなくなり、労働収入がゼロになったとしてもまったく困りません。なぜなら、体が悪くなれば、遊ぶお金は必要がなくなるからです。
たとえば、定年後の収入が月10万円だとすると、1年で120万円になります。これだけあれば、年に数回旅行することや、少し贅沢(ぜいたく)な外食を楽しむこともできるでしょう。
生活のために働くのはストレスになりますが、「楽しむためにお金を稼ぐ」と思えば、仕事に対するモチベーションも上がるというものです。
最後に、悩ましいのが「不確定支出」です。おもに医療・介護・施設入居といった高齢期に起こりうるリスクに備えるお金を想定しています。これは、いつ、いくら必要になるかわかりません。もしかしたら、ピンピンコロリで亡くなってしまい、費用が一切かからないということもありえます。
こうした不確実なお金こそ、退職金や金融資産といった「確実にあるお金」でまかなうのが安心です。退職金を取り崩さずにとっておくのは、医療費や介護費への備えなのです。
徹底的に無駄を省けば年金の範囲内で暮らせる
◆約半数の人は公的年金のみで暮らしているという事実
定年後は、現役時代より生活費が減るとしても、「公的年金だけでまかなえるのか?」と心配する人もいると思います。
しかしこれは、あまりむずかしいことではありません。公的年金の受給額に合わせたライフスタイルにすればよいだけです。実際に、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(令和元年)のデータによると、公的年金を受給している世帯の約半数、48.4%が公的年金のみで暮らしています。
家計に赤字を出さないためには、繰り下げなどによって受給額を増やすとともに、老後の生活に合わせて支出を減らす工夫が必要です。
家計の支出を減らすというと、まっさきに「節約」ということが頭に浮かぶかもしれません。節約というのは、ふだんの食費や光熱費を切りつめて、生活費を浮かせる方法です。
また、ほしいものがあっても我慢するといったニュアンスもあると思います。
こういった節約は、面倒なうえにそれほどの効果は期待できません。しかも「定年を迎えて、これから好きなことができる」というときに、生活を切りつめるとか、やりたいことを我慢するというのでは、これまでなんのために働いてきたのかわかりません。
これからの人生はケチケチ生きる必要はありません。それよりも、家計の無駄を徹底的になくし、見栄や義理のためにお金を使うのをやめましょう。
しかも、もともと無駄で必要のないものを減らすわけですから、暮らしへの影響はなく、ストレスもほとんど感じないと思います。
「いい人生だった」と思える暮らし方をプランニングするためにも、50歳になったら、ぜひ国の年金、会社の退職金・年金を確認してみてください。早めのアクションが不安を小さくし、新しい一歩を踏み出す力になると思います。
大江 加代
株式会社オフィス・リベルタス
代表取締役