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子どもができ幸せの絶頂の中、一本の電話…「かあさんが徘徊するようになった」

幻冬舎ゴールドライフオンライン

日本の現在、そして未来―。少子化の中で運命に翻弄されながらも懸命に生きる若者を描く社会派小説!※本記事は、花田由美子氏の小説『サトゥルヌス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。

一九九九年 孝子@花(はな)筏(いかだ)

昨日、初めて彼の部屋を訪れた。夕方、ドアの向こうに誰かが、来た。ノックの仕方が不安そうだった。彼の凍り付き方から外にいるのが女性だと認識した。そしてかぼそい声が呼ぶ。その前、彼が電話に出ないことが二度、あった。外にいる女性は来年の私だと、孝子の心は引きちぎられ押しつぶされた。

これも嫉妬? 必要ないのに炎が体の内側を焼き尽くし、口から、鼻から、目から火柱があがる。こんなの私じゃない。業火を追い出そうとしても囚われる。

ピンク色に染まる川面、ピンクの絨毯を敷き詰めたような土手、桜並木、そして青い空の下、ゆっくりと、孝一は手をつなぐ。指先からぎこちなく。

「私、こんなにちやほやされたことない。孝一さんは皆に愛されてきたのね。自分がされたように人にするって、言わない?」 

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桜のシャワーが散る。

「皆に愛され? まさか。仕事してると、あ、でもこの話はやめとく。せっかく孝子さんといて幸せなのに。ん、と、オヤジは厳しかったな。責任、責任って」

孝一は孝子に向いて立ち止まり、髪に降った花びらを一枚一枚、丁寧に取った。 息がかかるほど間近に向かい合う孝一の両耳が、逆光に赤く透ける。孝子は息を吸い込む。彼の匂いでこの体を満たす。

「真正面で孝一さんの目を見上げると、よけいにたれて見える!」

孝子が自分の五本の指を、孝一の五本の指の間に挟む。

「笑うとよけいにたれる! こんな愛嬌のある顔ってテレビでも見たことない! 友だちが勝手にオーディションに申し込んだ、なんてことはないの?」

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