
日本が中国、北朝鮮、ロシアと3正面の脅威に直面しているなか、ここに来て韓国が日韓関係の改善に大きく動き出した。韓国の朴振(パクチン)外相は3月初め、日韓関係で最大の懸案事項となってきた元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)の訴訟問題で、韓国大法院(最高裁)による判決で確定した、日本企業による被害者への賠償を韓国の財団が肩代わりするという解決策を発表した。
◆文前政権からの脱却を図る尹政権
昨年5月に誕生した尹錫悦(ユンソンニョル)政権は、対北朝鮮では前政権の融和政策から脱却し、日米韓3ヶ国による結束を重視する政策に転換した。北朝鮮は昨年計29回(55発)弾道ミサイルを発射し、今年2月には北朝鮮の偵察用ドローンが首都ソウル近郊まで接近したと韓国軍が発表するなど、南北間では軍事的緊張が高まっている。尹政権の発足以降、米韓の間では合同軍事演習が再び活発化し、2月下旬には北朝鮮による核兵器使用を想定した合同の机上演習「拡大抑止手段運営演習(DSC TTX)」がアメリカで実施され、3月にも共同軍事訓練が予定されている。
また、尹政権は対北朝鮮という局地的範囲を超え、グローバルパートナーとしての韓国に価値を見出そうとしている。昨年7月、尹大統領は岸田首相とともにスペイン・マドリードで開催された北大西洋条約機構(NATO)の首脳会合に参加した。日韓の指導者が同会合に参加するのは初めてで、そこではNATOとアメリカが持つインド太平洋地域の軍事同盟の接近という姿が見られた。また、尹大統領は自由で開かれたインド太平洋の実現を目指す日米豪印4ヶ国の協力枠組み「クアッド」にも強い関心を持っているとみられ、今後は韓国のクアッド接近が顕著になってくる可能性もあるだろう。
◆日本も韓国との関係改善を進める
日本側もこういった尹政権の行動を評価し、日本による韓国への接近も急速に進んでいる。3月半ばまでには尹大統領が東京を訪問し、岸田首相と日韓首脳会談を開催する予定で、両国首脳が互いの国を定期的に行き来するシャトル外交も再開される可能性が報じられている。また、尹大統領の訪日に合わせて韓国財界人たちも日本を訪れることが検討されており、経済面でも急速な関係回復が期待されている。
◆実は最も安堵したのはアメリカ
一方、こういった動きを最も歓迎しているのは、両国と同盟関係にあるアメリカだろう。21世紀以降中国の台頭が顕著になり、それに警戒心を強めていったアメリカは長年同盟国同士の複雑な関係に頭を悩ませてきた。アメリカが抱いてきた本音は、「中国や北朝鮮という脅威に直面するなか、日本と韓国は争っている場合ではない。目の前にある安全保障環境の現実を直視せよ」である。
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11年前の2012年 8月、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、ジョセフ・ナイとリチャード・アーミテージ両氏によって執筆された報告書「The U.S. -Japan Alliance: ANCHORING STABILITY IN ASIA」を発表し、その中で日韓への想いが記されている。両氏は米日韓の 3ヶ国間パートナーシップの重要性に言及し、3ヶ国は民主主義の価値観を共有し、その連帯は地域の安全と平和にとって不可欠な要素であり、軍事・安全保障分野の協力にとどまらず、原子力エネルギーや政府開発援助(ODA)など異なる分野を組み合わせた重層的な立場から協力を推進させることが重要とした。一方、それを実現するにあたり、日韓の歴史問題が大きな障害になっており、中国の台頭や北朝鮮の動向など不透明な脅威に直面している極東アジアのリアルポリティクスを考慮し、日韓両国は現実的な側面から行動するべきであり、歴史問題によって両国の安全保障、政治、経済などにおける協力が妨げられてはならないとした。
今後、日韓関係は大きく雪解けに向かうと思われる。しかし、それに最も安堵しているのは日本でも韓国でもなく、中国との戦略的競争を繰り広げるバイデン政権かもしれない。