
※本記事は、イジリタツヒコ氏の小説『わしらの街にカープを連れてこい』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
野球馬鹿
「38番のお客様お待たせしました」
幸太は彼女の窓口に進んだ。彼女は変わらぬ優しい笑顔で幸太を見ている。二週間ぶりだが幸太にはずっと長く感じられた。
「どのようなご用件でしょうか?」
「貯金を下ろしたいのですが、通帳と印鑑を持ってきました。少額なので申し訳ないですが」
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「いえ、かまいません。キャッシュカードは作っていらっしゃいませんか?」
「いや持ってはいるのですが、どこへしまったか見つからないので」
嘘をついた。
「それはお困りでしょう。作り直しますか?」
「あ、いやそれはいいです」
「でも落としていて、誰かに拾われて悪用されたら大変です」