月間6700万ページビュー(閲覧数、22年11月時点)を数える人気の情報サイトで、企業などは有料で自社のプレスリリースを掲載できる。月間契約プランは8万円、従量課金プランは1件につき3万円だ。
大きな特徴として、提携メディアにも転載される点がある。読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、スマートニュース、東洋経済オンライン、ブルームバーグなど約225媒体が名を連ね、「最適な20媒体以上に原文転載」するという。企業としては、多くのブランド力のある媒体に少額で露出する機会が得られる。
PR TIMES側では、多くの読者とパートナーを抱えるだけにリリースの質の担保に力を入れている。配信には企業審査が必須で、リリースも配信後にシステムと目視で全件確認する。
リリースは事前審査制としている同業他社もあるが、「仮に検閲を過剰に優先させて”発表前”審査を行うと、間違いを防ぎやすくなる一方で、可能性を持つ多くの発表を遅らせてしまうことになります」と説明している。掲載基準に沿わない場合は取り下げや利用停止措置も辞さない。
掲載基準は、業種別に設けるなど厳格さをアピールしている。22年5月には調査リリースの基準を引き上げ、SNSで称賛を集めた。
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PR TIMESは当時、J-CASTニュースに「プラットフォームをいかに長期的に成長させるかを大事にしていますので、仮に短期的に掲載数が減ったとしても、その件数を取るためにそぐわない内容を許容してしまうことになれば我々のポリシーにふさわしくない」と自社の方針を話していた(詳報:「No.1広告」制限へ…プレスリリース大手PR TIMESが決断 「やらせ横行」で業界団体も危機感)。
しかし、人気ゲームの不正ツールがチェックをすり抜け紹介されていたことが23年2月に発覚し、PR TIMESは再発防止策を講じる事態となった(詳報:「ポケモンGO」不正指南リリース、PR TIMESに掲載 「位置偽装100%成功」…指摘受け削除)。
今回の問題も、チェック体制の不備をうかがわせる出来事だ。無登録FX業者が載ったリリースは、産経新聞、時事通信、FNNプライムオンラインなど大手メディアにも転載され、信頼できる情報源から「お墨付き」を得ているという印象を与えかねない。
投資被害に詳しい弁護士の見解は
投資被害に詳しい荒井哲朗弁護士は、「海外FX業者との間でのトラブルには、規約に反する取引が行われたと一方的に通知されて取引益金が没収されたり、口座が凍結されたり、出金条件に適合しないなどとして出金がなされないなどというケースが代表的なもので、そうしたトラブルは頻繁に見られます」と取材に指摘する。
荒井弁護士によれば、海外FXの危険性を認識せずに高いレバレッジや特典に釣られる消費者は後を絶たず、「その入り口として、ランキング形式での紹介の体裁をとった記事やアフィリエイトサイトが利用されているものと思います」との見方を示す。
海外FXの媒介・ほう助行為も違法性を問われる可能性があり、「本来FX取引は賭博であり、法令の範囲内で行われる場合に初めて違法性が阻却されるというものです。海外FX取引を大っぴらに紹介するということと、摘発されにくい地下カジノランキングなどというものを掲載することとの間に、どれほどの違いがあるというのでしょうか。海外FXに関しては、もう少し正しい規範意識を持って臨むべきだと思います」と問題視した。
国民生活センターの担当者は、次のように注意喚起する。
「FXで儲かると言われたり、広告で見たとしても、鵜呑みにしないで欲しいです。仮に知人からの紹介であれば断りづらい面もあるかもしれませんが、紹介する側には何らかのメリットがあるとも考えられ、冷静に判断をしていただきたいです」
「また、トラブルは海外の無登録業者との間で起きていることが多いです。トラブルになってから業者について調べて怪しかったり、無登録だと分かるパターンが非常に多く、取引前に登録の有無を確認して欲しい」
再発防止策を公表、チェック体制強化へ
PR TIMES経営管理本部長は7日の取材に、J-CASTニュースの指摘を受けて13件のリリースを掲載停止したと明かした。追加で、3件も同様の対応をする予定だという。
弁護士に確認した上で、「プレスリリース内で金融庁に無登録の金融商品取引業者を宣伝する内容が含まれる場合に、金融商品取引法に抵触する可能性を否定できない」と判断した。
投資商品の発表を主眼に置いたリリースの審査では、▽金融商品取引業者である場合は金融庁の免許・許可・登録などを受けていること▽投機心を著しくあおる表現や誇大表現が見られないこと▽取引に伴うリスクに言及していること――などを確認している。
しかし、チェックが徹底されていなかった。加えて、調査結果の発表やキャンペーン開始の体裁だと「記載内容に含まれている金融商品取引業者への審査が十分行えていなかったことが分かった」と話す。
8日には自社サイトで謝罪文を掲載し、再発防止として次の4点を挙げた。
・企業登録審査およびプレスリリース内容審査において、金融商品取引法および各種法令に抵触する恐れのある行為をチェックする項目を新たに設けます。
・ キーワード検知システムに新たな金融関連キーワードを追加し、注視いたします。
・ 新たな判定項目の社内教育を行い、社内エスカレーション条件を整備いたします。
・ 各行政庁が警告・違反を通告する企業を随時確認し、再審査を行います。
「適切にPR TIMESを活用して情報発表いただいている企業・団体の皆さま、情報源として取材活動にお役立ていただいているメディア・記者の皆さま、有用な最新情報として楽しんでいただいている生活者の皆さまへ、PR TIMESに対してご心配をお掛けすることとなり、誠に申し訳ございません」としている。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)