
今回ピックアップするのは直木賞を受賞した小川哲の『地図と拳』。直木賞という文学賞について、あらためて見つめ直してみませんか。
物語を紡ぐ
毎年1月と7月に芥川賞と直木賞が発表されますが、その候補作が発表されると気になってしまいます。この2つはやはり日本文学の最大権威だから仕方ないですね。
前者は純文学なので、えっ?そんな人が?と思うような人が候補になって実際に受賞することもあるのですが、後者は一応大衆文学と言う建てつけなので、イメージとしてはある意味職人肌、と言うか、たまにこんな重鎮みたいな人が直木賞受けるの?と言うことが起きるのも直木賞の特質だなあ、といつも思ったりしています。
で、この1月は、それぞれ2人ずつ受賞者が出ました。
だいたいどちらか一冊は読もうぐらいの思いはいつも持っているのですが、今回は4作もあるので悩みました。そして一番長い小川哲『地図と拳』を読むことにしました。一つには前回のこの欄でも書いた『君のクイズ』の作者であることもありましたが、この小川さんと言う人が何となく変な人そう、という純粋な興味に誘われました。
著者小川 哲 出版日
全623ページの大作を何とか一週間で読了しました。遅読で申し訳ないのですが堪能しました。
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ざっくり言うと日露戦争から関東大震災、満州事変、日中戦争、太平洋戦争を経て終戦までの満州を舞台にした“空想”歴史小説なのですが、この、空想、と言うところがなかなか難しいところですね。著者が人生最初に影響を受けた小説が筒井康隆の『農協月へ行く』ということでそれもなんか分る気がしました。
著者筒井 康隆 出版日
歴史小説であるので実在する人物や事件もベースとしては踏まえられています。
張作霖が爆殺される、とか、石原莞爾が満州事変を起こしたらしい、とかは実話ですね。でもこの時代のことを背景にした小説なんてそもそも売れるのか?と根が単なるエンタメ志向の僕などはつい思ってしまうのですが、結果売れてるのですから、世の読書人もまだまだ捨てたものではないんだなと思いました。
ちなみに誤解があるといけないので言っておくと、僕自身は1920年代から終戦にいたるぐらいまでの日本を中心とする世界の話にかなり興味を持っているほうです。これはいわゆるバブル世代と言われる僕のような人間が若い頃は、歴史の授業で昭和の話にたどり着くまでに学期が終わってしまって、しかも受験などであまり近現代が大事にされていなかった時代でもあって、そこに詳しくなくなってしまうということがあり、その反動でもあります。
僕など、日本とアメリカが戦争したことは知っていても、日本と中国が戦争したことを知ったのは高校卒業してからでしたからね、正味な話。
僕はこれではさすがにいけないと思って、大人になってからこの時代についての本を折に触れて読み続け、現在にいたっております。
2023年3月8日